ヘルシング社とは?楽天が提携表明した独防衛ドローン・AIスタートアップ

ヘルシング社とは?楽天が提携表明した独防衛ドローン・AIスタートアップ

2026年8月17日、日本経済新聞は楽天グループがドイツの防衛スタートアップ、ヘルシング(Helsing)と提携すると報じました。同社が開発する攻撃型ドローン(爆発物などを搭載し目標を直接攻撃する無人機)を陸上自衛隊向けに提案するなど、日本への導入を支援するとみられ、ドローンの日本国内での国産化も視野に入れているとされます。

「ヘルシング」という社名を初めて聞いた方も多いのではないでしょうか。ドイツ発の防衛テック企業が、なぜ楽天という日本の大手企業と手を組み、自衛隊向けの提案にまで話が及んでいるのか。本記事では、ヘルシング社の情報発信をもとに同社がどのような企業かを整理します。

企業概要











会社名 Helsing(ヘルシング)※法人格を含む正式登記名の詳細表記は未確認
創業 2021年3月・ドイツ ミュンヘン
創業者 Torsten Reil氏、Gundbert Scherf氏、Niklas Köhler氏
経営体制 Gundbert Scherf氏・Torsten Reil氏(共同CEO)、Niklas Köhler氏(社長兼CPO)
事業内容 AIを活用した精密量産兵器(precision mass)・自律システムの開発(防衛ソフトウェア企業)
主な製品 HX-2(攻撃ドローン)、CA-1 Europa、Centaur、SG-1+LURA、Altra、Cirra 等
直近の資金調達 2026年7月、シリーズEで18億ドルを調達、評価額180億ドル
日本との関わり 楽天グループとの提携により陸上自衛隊向け提案・国内生産支援が見込まれると報道(2026年8月17日時点)
公式サイト 公式サイトを見る

ヘルシング社とは何か

ヘルシングは、「民主主義を守るためのAI」を掲げるドイツ発の防衛テック企業です。AIを活用した精密量産兵器(precision mass)と自律システムを、空・陸・海・電子戦などあらゆるドメインで提供することを目指しています。新型の自律システムを自社で設計・製造する一方、各国政府や産業界と提携し、既存のハードウェア資産をAI対応ネットワークに接続する取り組みも行っています。

ちなみに、ヘルシングという名前の由来は明らかにされていませんが、ブラム・ストーカーの小説『ドラキュラ』に登場する吸血鬼ハンターにAbraham Van Helsingは、医学博士・哲学博士・法学者・科学者・形而上学者という、ドラキュラの宿敵として知られるキャラクターがおり、「悪(脅威)と戦い、人々・社会を守る者」というイメージは、同社の掲げる「民主主義を守るAI」というミッションと親和性が高いという考察もできます。日本の人気漫画である『HELLSING』とはつづりが異なっていますが、こちらも『ドラキュラ』が由来とされています。

創業の経緯

ヘルシングは2021年3月、ドイツ・ミュンヘンで設立されました。創業者は3名で、ゲーム会社NaturalMotionの創業者だったTorsten Reil氏、ドイツ国防省出身のGundbert Scherf氏、機械学習エンジニアのNiklas Köhler氏という異なる背景を持つメンバーが顔をそろえています。

経営体制と企業理念

経営体制は、共同創業者のGundbert Scherf氏とTorsten Reil氏が共同CEOを、Niklas Köhler氏が社長兼CPO(最高製品責任者)を務めています。取締役会には共同議長として、音楽配信サービスSpotifyの創業者Daniel Ek氏や、航空機大手エアバスの元CEOであるTom Enders氏が名を連ねています。

同社は「防衛はソフトウェアの課題になった」という考え方を掲げ、民主主義的な価値観と開かれた社会を守ることを自らの「市民的責務」と位置づけています。倫理を技術開発の中核に据えることを重視しているとのことです。ゲーム・音楽配信・航空機産業といった、必ずしも防衛出身とは限らない経歴を持つ人物が経営や取締役会に関わっている点は、同社の特徴の一つといえそうです。

製品ラインと量産体制

HX-2 – AI Strike Drone | ヘルシング社Webサイトより引用

ヘルシングは、HX-2以外にも複数の自律・AIシステムを展開しています。同社の説明によると、代表的な製品は以下の通りです。

製品名 概要
HX-2 AIを搭載した攻撃型ドローン。ウクライナ向けの供給実績がある
CA-1 Europa 自律航空優勢システム
Centaur 戦闘機向けAI(自律航空優勢)
SG-1 + LURA 水中自律群システム
Altra 偵察・攻撃向けソフトウェア
Cirra 電子戦向けAI

こうした多分野の製品展開を支える基盤として、同社は「Resilience Factories」と呼ばれる大量防衛製造拠点の展開を進めているといいます。単一の製品を作り込むというより、AIソフトウェアと量産可能なハードウェアを組み合わせ、複数国・複数ドメインに同時展開できる体制づくりを志向している様子がうかがえます。

2026年7月の大型資金調達とグローバル展開

ヘルシングは2026年7月13日、シリーズEで18億ドルを調達し、企業評価額が180億ドルに到達したと発表したといいます。投資家にはDragoneer、Lightspeed、Iconiq、ゴールドマン・サックス・オルタナティブズ、JPモルガン・チェース、CPP Investmentsなどが名を連ね、欧州資本が主体である点を同社は強調しています。(参照:Helsing raises US$1.8bn in Series E | Helsing

同社はこの資金調達により、提携国の防衛能力に新たなAIプラットフォームを統合する取り組みを加速する方針だといいます。ニュースルームでは、ウクライナ担当マネージングディレクターの任命(2026年7月15日)や、米国初の「Resilience Factory」拠点として米ウェストバージニア州を選定したこと(同7月14日)も発表されており、欧州にとどまらずウクライナ・米国へと事業展開を広げている段階にあることがわかります。

楽天とヘルシングの提携報道

日本経済新聞の報道によると、楽天グループはヘルシングと提携し、同社の攻撃型ドローンを陸上自衛隊向けに提案するなど日本への導入を支援するとしています。ドローンの日本国内での国産化も視野に入れていると報じられています。今回の提携は、10月末に予定されるドイツのメルツ首相の初来日、および高市早苗首相との安全保障を巡る会談を控えたタイミングでの発表とされ、日独の防衛連携が動き始める文脈の中で位置づけられていると報じられています。

楽天にとって、防衛関連の提携は今回が初めてではありません。2025年5月には、ウクライナの防衛技術イノベーションを支援する政府機関「Brave1」と協力し、同国のスタートアップ企業複数社に対して日本の政府機関や潜在的パートナーとの連携支援を検討していくことを決定したと発表しているといいます(参照:楽天グループ株式会社「楽天とBrave1、ウクライナのスタートアップ企業支援で協力」)。2026年5月には、ドローン自律制御ソフトを手がける米Swarmer社の日本市場参入も支援したと報じられています。

AIS Insight

今回の一件で興味深いのは、防衛産業とは一見縁遠いEC・通信大手の楽天が、ヘルシングやSwarmerといった海外の防衛テックスタートアップの「日本進出の橋渡し役」を連続して担っている点です。ヘルシング自身の取締役会にも、Spotify創業者やエアバス元CEOといった、必ずしも伝統的な防衛業界出身とは限らない顔ぶれが並んでいます。防衛テックの担い手は、必ずしも従来の防衛関連企業だけとは限らず、消費者向けテクノロジーや異業種で培ったネットワーク・調整力そのものが新たな価値になり得る、という示唆が得られます。ドローン・GIS関連のビジネスに携わる企業にとっても、自社が直接「防衛」を手がけていなくても、海外スタートアップとの橋渡しという形で関わる余地があるのかもしれません。

まとめ:今後の注目点

ウクライナ戦争を契機にドローンの重要性が世界的に再認識される中、日本国内でも自衛隊向けの無人機導入や国産化への関心が高まっているとみられます。評価額180億ドルという規模まで成長し、欧州にとどまらずウクライナ・米国へも展開を広げているヘルシングにとって、日本市場は今後の展開先の一つに位置づけられ始めた段階といえそうです。楽天との提携が実際にどのような形で進むのか、陸上自衛隊への提案が具体化するのか、国内生産がどの程度実現するのかは、本記事執筆時点(2026年8月17日)では今後の動向を見守る段階です。

10月末に予定されるメルツ首相の来日や、高市首相との会談は、日独の防衛協力全体の方向性を占ううえでも注目されるタイミングといえそうです。ヘルシングという一企業の動きにとどまらず、日本の防衛産業における「海外スタートアップ×国内大手企業」という新しい協業パターンの一例として、今後の続報を追っていく価値がありそうです。

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