2025年12月3日、米国の防衛テック企業アンドゥリル・インダストリーズが日本法人「Anduril Industries Japan合同会社」を設立しました(参照:Anduril Industries Japan合同会社設立に関するプレスリリース | PR TIMES)。
その翌日には小泉進次郎防衛大臣が創業者パルマー・ラッキー氏と面会し、自身のX(旧Twitter)で「日本の防衛産業の発展と日米で新たなサプライチェーンの構築に繋げていきたい」と投稿しています。
今朝は、100%日本産ドローンを手がけるアンドゥリル・インダストリーズのパルマー・ラッキー氏と防衛産業について意見交換。パルマー氏は昨日日本法人を立ち上げました。世界で注目される新興防衛企業のアンドゥリルから学ぶことは多いです。パルマー氏は大の日本好きとしても知られています。このご縁… pic.twitter.com/fETyH9xrIO
— 小泉進次郎 (@shinjirokoiz) December 4, 2025
「アンドゥリル」という社名を初めて聞いたビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。VRヘッドセット「Oculus」の開発者としても知られる現在33歳のラッキー氏は、日本のメディアの取材に対し「日本は第2のホーム」と親日家であることを明かしながらも、ビジネス展開の遅さという率直な課題を突きつけています
(参照:アンドゥリル創業者 パルマー・ラッキー氏「日本は「第2のホーム」だ。しかし、スピードが遅すぎる」 | 実業之日本フォーラム)。
本記事では、アンドゥリル社がどのような企業か、そして同社が指摘する日本の防衛産業の課題と可能性を整理します。
- 米防衛テック企業アンドゥリルが2025年12月に日本法人を設立、小泉防衛大臣とも会談
- 創業者は装備品納入の遅延(約120件・約1.1兆円分)や「玉不足」リスクを指摘
- 秋田の中小企業アスターとの協業に加え、日産追浜工場の取得も協議中と判明
アンドゥリルとはどんな会社か
2017年に設立されたアンドゥリル・インダストリーズは、公式サイトで自らを「先進技術によって米国の防衛能力を変革する」企業と位置づけています。米国では防衛テック企業として「デカコーン」(評価額が数十億ドル規模に達した非上場企業)評価を受ける、いま最も注目されるスタートアップの一つです。米空軍は2026年6月17日、有人戦闘機と連携して飛行する自律型ドローンの量産を、アンドゥリルと米防衛大手ゼネラル・アトミクスに発注することを決定しており、米国内での存在感もさらに高まっています(参照:米新興防衛アンドゥリル社、日産の追浜工場取得を協議 無人機の生産拠点に=関係者 | ロイター)。
同社が従来の防衛メーカーと一線を画すのは、その開発アプローチです。Amazon・Microsoft・Metaといった民間トップ企業の出身者を集め、政府からの要求仕様や予算確定を待たずに自社投資で先に製品を作り上げます。開発から納入まで平均12年かかるとされる防衛業界の常識に対し、短いサイクルで技術を更新し続けるモデルを目指しているとのことです(参照:Anduril Japan 事業開発担当ディレクター 神永慶吾氏インタビュー、Startup Aquarium(2026年7月8日配信)※ユーザー提供の一次情報のためURLなし)。
同社の中核製品も、ドローンなどのハードウェアそのものではありません。AIを活用したソフトウェアプラットフォーム「Lattice」が事業の要になっています。Latticeは通信環境が不安定な戦場でも自律的にミッションを継続できるよう設計されており、集まってくる大量のセンサーデータに優先順位を付けたり、脅威に対する迎撃の選択肢をAIが提示したりする機能を持っています。
日本法人の代表には、米海軍に30年間勤務した経歴を持ち、2008年には日本の防衛省などへの配属実績もあるパトリック・ホレン氏が就任しました。日本法人は統合防空ミサイル防衛、低コストで量産可能なネットワーク化打撃システム、海洋自律システム、AIを活用したヒューマン・マシン・チーミングの4分野を重点戦略として掲げています。
企業概要
| 正式名称 | Anduril Industries, Inc.(日本法人:Anduril Industries Japan合同会社) |
|---|---|
| 創業者 | パルマー・ラッキー(Palmer Luckey)氏 |
| 日本法人設立 | 2025年12月3日 |
| 日本法人所在地 | 東京都千代田区 |
| 日本法人代表 | パトリック・ホレン(Patrick Hollen)氏 |
| 事業内容 | AI自律プラットフォーム「Lattice」を中核とする防衛関連ソフトウェア・ハードウェア開発 |
| 対応地域 | 米国、英国、オーストラリア、日本など |
| 公式サイト | 公式サイトを見る |
「日本は第2のホーム」創業者が語る進出の背景
ラッキー氏は日本法人設立発表に際し、日本を「第二のホーム」と表現しました。Oculus時代から日本企業との信頼関係を築いてきたとのことで、これまでは日本企業を部品サプライヤーとして活用するにとどまっていたのに対し、今回は日本そのものを開発・製造の拠点にする段階へ進むと述べています。
同氏が特に重視しているのが、100%日本製ドローン「絆」の開発です。政府から「主要4部品だけ日本製でどうか」という提案があったものの、これを断り、10社以上の日本企業と1年間協議を重ねて、抵抗器や接着剤に至るまで全て日本製でまかなう体制を実現したといいます。
アンドゥリル経営者が指摘する日本の構造的課題
一方でラッキー氏は、日本での事業展開における課題も率直に語っています。1つは防衛産業への心理的抵抗感や、「中国を刺激したくない」という企業側の懸念、軍事技術に関わることへの職業的な不安といった文化的なハードルです。もう1つが、スピードの問題です。
同氏は「ウクライナでは2週目に兵器が届き、数週間でソフトウェアをアップデートしている。日本は委員会をつくり、数年かけて調査する」と指摘し、対照的にオーストラリアでは初回の打ち合わせから納品まで2年未満で、契約額も1億4000万ドルから17億ドルへ急速に拡大したと説明しています。同じ期間、日本については「まだ3回目の夕食会の日程調整中といったところ」と皮肉交じりに表現しました。
背景には、防衛テックスタートアップが日本で育ちにくい構造もあります。ベンチャーキャピタルによる投資規模が、人口比で米国の約300分の1にとどまるとされ、優秀な学生ほど大企業への「安定したレール」を選びやすい傾向もあるとのことです。ラッキー氏は「小さな企業がなければ、大きな企業は生まれない」と述べ、防衛や農業など重要産業への投資利益に対する税制優遇の必要性を提案しています。
こうした構造的な遅さは、装備品の調達実務にも表れています。日本は防衛装備の多くを米国から購入していますが、優先順位は米軍が上位に置かれがちで、現在約120件・約1.1兆円分の装備品納入が5年以上遅延し、バックログ化しているといいます。さらに、日本が攻撃を受けた場合のシミュレーションでは、短期間で弾薬を撃ち尽くしてしまう「玉不足」に陥る可能性が高いとも指摘されています。大量の無人機が飛来した際、現行のレーダーでは識別が難しく、結果的に高価な有能ミサイルを浪費させられるリスクがあるとのことです(参照:Anduril Japan 事業開発担当ディレクター 神永慶吾氏インタビュー、Startup Aquarium - 2026年7月8日配信)。
また、日本はコンポーネントや要素技術そのものには強みを持つ一方で、それらを組み合わせて防衛装備システムとして統合するための投資やスケールメリットが、業界全体として不足しているという指摘もあります。
| 課題 | アンドゥリル社が示す具体例 |
|---|---|
| 調達スピード | 装備品納入の約120件・約1.1兆円分が5年以上遅延 |
| 弾薬・迎撃能力 | 大量無人機への対応で「玉不足」に陥るリスク |
| 産業構造 | 要素技術はあるが、システム統合への投資・スケールが不足 |
| 資金調達環境 | VC投資規模が人口比で米国の約300分の1 |
国内生産拠点の広がりと「Build with Japan」
課題を指摘する一方で、アンドゥリルは日本企業との具体的な協業も進めています。象徴的な事例が、秋田県の中小企業アスターとの業務提携です。アスターはもともと防衛分野に関与しておらず、中国市場向けにドローン部品を取引することも可能な立場にありましたが、社長の「日本を守りたい」という思いから、アンドゥリルへの技術提供を選んだといいます。同社の小型モーターは、現在アンドゥリルのグローバルサプライチェーン向けに購入されています。
アンドゥリルは、日本に貢献できる柱として3点を挙げています。1つ目は短期間で確実に装備品を納入すること、2つ目は国内に製造基盤を築き、売上をサプライヤーへ還元していく「Build with Japan」「Grow with Japan」という考え方、3つ目はデュアルユース(軍民両用)のコマーシャル製品としての性質を活かし、輸出事業を新たに生み出すことです。
同様のモデルは、すでにオーストラリアで実績を挙げています。同国では軍との共同開発を通じて現地の体制が約350人規模まで拡大し、無人潜水艦を現地サプライチェーンで製造する「ビルドwithオーストラリア」モデルが成功例になっているとのことです。日本でも2025年1月以降、担当者だけで約48社の日本企業と面談し、秘密保持契約の締結や協業分野の検討を進めている段階だといいます(参照:Anduril Japan 事業開発担当ディレクター 神永慶吾氏インタビュー、Startup Aquarium(2026年7月8日配信)※ユーザー提供の一次情報のためURLなし)。
こうした国内生産拠点構築の動きは、より大きな規模でも表面化しています。2026年6月25日付のロイター通信の報道によると、アンドゥリルは日産自動車が閉鎖を予定する追浜工場(神奈川県横須賀市)の取得について、複数の関係者と協議していることがわかりました。同工場を軍事用ドローンの生産拠点に転換し、働く従業員の多くをドローン製造要員として採用する意向だといいます。実現すれば、戦後の日本の経済成長を支えてきた自動車工場が防衛装備品の工場へ生まれ変わる、象徴的な転換と言えるでしょう。(参照:米新興防衛アンドゥリル社、日産の追浜工場取得を協議 無人機の生産拠点に=関係者 | ロイター)。
アスターの事例で興味深いのは、もともと防衛分野と無縁だった一地方の中小製造業が、経営者の意思決定ひとつでグローバルなサプライチェーンの一角に入り込んだという点です。ドローン・GIS関連のビジネスに携わる中小企業にとって、「防衛」という言葉に身構えすぎず、自社の要素技術が海外の統合プラットフォームにどう組み込まれ得るかを一度棚卸ししてみる価値がある判断をする企業は今後増えていくのかもしれません。
日本にとっての可能性
ウクライナ戦争を契機にドローンの重要性を再認識した日本政府は、2027年度までに沿岸部へ数千機規模のドローンを配備し、敵の上陸を阻む「盾(シールド)構想」を計画しています。防衛費もすでに国内総生産(GDP)比2%まで引き上げられており、次期防衛力整備計画でさらに上積みする方針です。こうした政策的な追い風が、アンドゥリルをはじめ各国の防衛関連企業を日本市場に引き寄せる要因になっているとみられます。
小泉防衛大臣とラッキー氏の会談、そして日本法人設立という一連の動きは、こうした流れの中で単なる一企業の市場参入にとどまらない意味を持ちます。アンドゥリルが掲げる統合防空ミサイル防衛や海洋自律システムといった重点分野は、日本が抱える調達の遅さや玉不足リスクへの直接的な処方箋になり得るからです。
同時に、日本にとっての可能性は防衛分野だけに閉じたものではありません。デュアルユース製品としての輸出しやすさを活かした事業創出という柱は、防衛産業に直接関わってこなかった製造業・部品メーカーにも間口を開くものです。秋田のアスターや、追浜工場をめぐる協議のように、経営判断や地域の事情次第で自社の技術・拠点がグローバルなサプライチェーンに組み込まれる余地は、今後さらに広がっていく可能性があります。
まとめ
アンドゥリル社は、AIプラットフォーム「Lattice」を軸に、従来の防衛メーカーとは異なるスピード感で事業を展開する企業です。創業者パルマー・ラッキー氏は日本を「第2のホーム」と呼ぶ一方、装備品納入の遅延や玉不足リスク、システム統合力の不足といった構造的な課題を率直に指摘しています。秋田のアスターとの協業や、日産追浜工場の取得協議のように、地方の中小企業から大規模な製造拠点まで、日本の生産基盤が新たな事業機会につながる動きも生まれ始めており、ドローンやGIS関連の技術を持つ企業にとっては、自社の技術がどのような形で活用され得るかを見極める視点が今後ますます重要になりそうです。