日曜劇場「VIVANT」では、テロ組織から国を守るため水面下で活動する、公にされていない陸上自衛隊の秘密情報部隊"別班"が描かれています。ちょうど同じタイミングで、政府は2026年7月24日の閣議で、インテリジェンス(情報収集・分析)の中核機能を担う「国家情報局」を7月31日に設置し、初代局長に原和也内閣情報官(58)を起用する人事を決めました。一方で小泉進次郎防衛大臣は同月28日の記者会見で、"別班"のような組織は「これまでも、現在も存在していない」と明確に否定しています。
国家情報局とは、いったいどのような組織なのでしょうか。ドラマが描くような秘密工作機関なのか、それとも別の役割を担う組織なのか。本記事では、発足の経緯と実際の位置づけを、政府の発表や専門家の見解をもとに整理します。
- 2026年7月31日、内閣情報調査室を改編し「国家情報局」を設置
- 初代局長に原和也内閣情報官(58)が就任、国家安全保障局長と同格の位置づけに
- VIVANTの"別班"のような秘密工作組織ではなく、省庁横断の情報集約・分析の司令塔
国家情報局とは何か 発足の経緯と体制
政府は2026年7月24日午前の閣議で、内閣情報調査室(内調)を改編し「国家情報局」を7月31日に設置することを決定しました。初代局長には、内閣情報官を務めていた原和也氏が起用されます。原氏は1990年に警察庁に入り、外事・公安畑を中心にキャリアを積んだ人物で、安倍晋三元首相の事務秘書官や警察庁警備局長などを経て、2023年に内閣情報官に就任していました(2026年7月24日の閣議決定に関する報道より)。
国家情報局は、内調とほぼ同規模となる職員約700人体制で発足します。トップの「国家情報局長」は、内調を統括してきた内閣情報官のポストを格上げしたもので、安全保障政策の司令塔である国家安全保障局のトップ、国家安全保障局長と同格の位置づけになるとされています。
内閣情報調査室はこれまで、内閣官房の一組織として「内閣の重要政策に関する情報の収集及び分析その他の調査に関する事務並びに特定秘密の保護に関する事務」を担ってきました。組織内には総務部門・国内部門・国際部門・経済部門に加え、衛星画像の解析を担う内閣衛星情報センター、特定秘密の保護に関わるカウンターインテリジェンス・センターなどが置かれています。(参照:内閣情報調査室 | 内閣官房)
政府は同じ7月31日に、新たに「国家情報会議」の初会合も開く予定です。議長は高市早苗首相が務め、外相や国家公安委員長などの関係閣僚で構成されます。国家情報局が事務局機能を担い、同会議は安全保障や外国勢力による介入などに関する情報活動の基本方針を今後定めていくとされています。関係省庁に対して収集した情報の提供・説明を求める権限を持ち、政府一体となった情報収集・分析活動の実現を目指す位置づけです。あわせて有識者会議を設け、「国家情報戦略」の策定にも取り組む方針だといいます(同報道より)。
なぜ"別班"と結び付けられるのか VIVANTと現実の違い
現在放送中の日曜劇場「VIVANT」は、テロ組織から国を守るため水面下で活動する、公にされていない陸上自衛隊の秘密情報部隊"別班"の活躍を描いたドラマです。"別班"の存在は以前から一部報道で取り沙汰されており、2023年には石破茂前総理(当時は総理就任前)が国会でその存在を問われ「あるともないとも言えません」と述べたことがありました。
こうした経緯もあってか、国家情報局の発足を「日本版CIA」やドラマの"別班"のような秘密工作組織の誕生と捉える見方も見受けられます。しかし小泉進次郎防衛大臣は2026年7月28日の記者会見で、"別班"について「陸上自衛隊の"別班"といったような組織はこれまで存在しておらず、また現在も存在しておりません」と明確に否定しました。そのうえで、諜報・情報を専門とする部隊など人的情報収集能力の強化は、防衛省を含めた「政府全体の課題」だと述べています。
小泉大臣の発言は"別班"という特定の組織の存在を否定したものであり、今回発足する国家情報局そのものについて言及したものではありません。「別班のような秘密部隊は存在しないと防衛大臣が明言した」という事実と、「国家情報局は別班のような組織ではなく別の役割を担う」という事実は、それぞれ分けて理解しておく必要があります。
国家情報局が担うのはスパイ活動ではなく司令塔機能
専門家はどのように見ているのでしょうか。情報史学研究家で麗澤大学特任教授の江崎道朗氏は、2026年2月28日に配信された動画番組「選挙ドットコムちゃんねる」で、国家情報局について、海外でのスパイ活動や秘密工作を主眼とする組織ではなく、各省庁に分散している情報を政府全体で集約・分析するための司令塔にあたると説明しています。
参照:選挙ドットコムちゃんねる「【高市総理のインテリジェンス分野ブレーンに聞く】インテリジェンスはなぜ必要?/国家情報局・対外情報機関・スパイ防止法の意味/今の時代の新しいリスク/人員の育成は?【江崎道朗】」2026年2月28日配信
江崎氏によると、現在の日本では防衛省・外務省・警察庁・経済産業省などがそれぞれ独自に情報を収集している一方、それらを省庁横断で共有・総合分析する機能は十分ではありませんでした。そのため、重要な情報が個別に集まっても、国家全体の情勢判断や政策決定に効果的に結びつかないという課題が指摘されてきたといいます。国家情報局には、従来型の軍事・外交分野の情報に加え、サイバー攻撃や経済安全保障といった多様化するリスクを一元的に把握し、首相や政府中枢に的確な判断材料を提供する役割が期待されています。
情報機関と聞くと、映画やドラマの影響でスパイ活動そのものをイメージし、なんとなく秘密めいた"かっこよさ"を連想しがちです。しかし江崎氏の説明を踏まえると、国家情報局の本質は情報を集める活動そのものよりも、集めた情報(素材)をどう分析・整理し、政策判断に使える形に「調理」するかという体制づくりにあるといえそうです。これは企業のリスク管理にも通じる視点で、情報収集の量よりも分析・活用の体制をどう整えるかが問われている点は、規模の大小を問わず参考になる論点です。
内閣情報調査室と何が変わるのか
内調から国家情報局への改編で、具体的に何が変わるのかを整理すると次の通りです。
| 項目 | 内閣情報調査室(改編前) | 国家情報局(改編後) |
|---|---|---|
| トップの役職 | 内閣情報官 | 国家情報局長 |
| 他組織との位置づけ | 国家安全保障局長より一段実務寄りの立場 | 国家安全保障局長と同格 |
| 職員規模 | 約700人 | 同規模の約700人体制を維持 |
| 主な機能 | 情報収集・分析、特定秘密の保護 | 従来機能に加え、国家情報会議の事務局機能 |
| 関連する新設組織 | なし | 国家情報会議(議長:首相)を新設 |
職員数自体は大きく変わらないものの、トップの格上げと、関係省庁に情報提供を求める権限を持つ国家情報会議の新設によって、省庁横断で情報を集約・分析する体制がより明確に位置づけられた点が、今回の改編のポイントだといえます。
ビジネスパーソンにとっての示唆
国家情報局の話題は、安全保障や政治のニュースとして受け止められがちですが、企業のリスク管理に関わる読者にとっても示唆があります。第一に、経済安全保障やサイバー攻撃といったリスクが、防衛・外交だけでなく経済産業省など複数省庁にまたがる課題として扱われている点です。取引先や海外進出先のカントリーリスクを把握する際、政府がどの省庁の情報を根拠に判断しているかを知っておくと、自社のリスク評価の参考になります。
第二に、江崎氏の指摘にもあった「情報が省庁ごとに分散し、横断的な分析機能が不足している」という課題は、多くの企業内でも起こりがちな構図です。営業・技術・調達といった部門ごとに情報が閉じてしまい、全社的なリスク判断に活かせないというケースは珍しくありません。国家レベルの改編が「集約・分析の司令塔をどう整えるか」を焦点にしている点は、組織の規模を問わず参考になる視点だといえるでしょう。公開情報を横断的に分析する手法については、以前の記事「OSINT(オシント)とは?公開情報から何ができるかを解説」でも解説していますので、あわせてご覧ください。
まとめ
2026年7月31日に発足する国家情報局は、ドラマ「VIVANT」の"別班"のような秘密工作機関ではなく、内閣情報調査室を改編し、省庁横断で情報を集約・分析する司令塔として位置づけられる組織です。初代局長には内閣情報官の原和也氏が就任し、国家安全保障局長と同格のポストとして新設されます。(参照:内閣辞令 令和8年7月31日付)あわせて発足する国家情報会議が、安全保障や外国勢力の介入に関する情報活動の基本方針を今後定めていく予定です。小泉防衛大臣が"別班"の存在自体を明確に否定している点と、国家情報局の実際の役割を混同せず、今後の制度整備の動向を見ていくことが重要です。