2026年7月13日、内閣府は企業の事業継続に関する指針を見直すため、「事業継続ガイドライン改定検討会」の第1回会合を開催しました。改定の背景には、南海トラフ地震や首都直下地震の被害想定の見直しが進む中で、企業の経営中枢機能を維持する代替戦略の重要性や、サプライチェーン対策の強化が指摘されている事情があります。(参照:事業継続ガイドライン改定検討会 | 内閣府防災情報のページ)
こうした動きの根底にあるのが、企業のBCP(事業継続計画)です。取引先や会議で「BCPは策定済みですか」と聞かれても、防災計画や危機管理マニュアルとの違いを正確に説明できる方は意外と少ないのではないでしょうか。BCPと似た言葉にBCM(事業継続マネジメント)もあり、両者を混同しているケースも見受けられます。
本記事では、BCPの定義と、混同されやすいBCM・地域防災計画との違い、企業が策定を進める際の基本的な流れを整理します。
- BCPは災害等の発生後も重要業務を止めない、または早期に再開するための経営戦略
- BCMはBCPの策定・訓練・見直しを継続的に回すマネジメント活動全般を指す言葉
- 内閣府は2026年7月に事業継続ガイドラインの改定検討に着手、南海トラフ地震等への備えを強化
BCPとは何か
BCPとは、Business Continuity Plan(事業継続計画)の略称です。内閣府防災情報のページでは、企業について「災害や事故で被害を受けても、取引先等の利害関係者から、重要な業務が中断しないこと、中断しても短い期間で再開することが望まれている」としたうえで、BCPを「災害時に特定された重要業務が中断しないこと、また万一事業活動が中断した場合に目標復旧時間内に重要な機能を再開させ、業務中断に伴う顧客取引の競合他社への流出、マーケットシェアの低下、企業評価の低下などから企業を守るための経営戦略」と説明しています。(参照:知る・計画する | 内閣府防災情報のページ)
かみ砕いて言えば、BCPは「災害や事故が起きたとき、自社のどの業務を、どれくらいの期間で復旧させるかをあらかじめ決めておく計画書」です。ここでいう「重要業務」とは、自社の存続や取引先との関係維持に直結する業務のことで、「目標復旧時間」とは、その業務をいつまでに再開させるかという時間の目安を指します。すべての業務を同時に守ろうとするのではなく、優先順位をつけて絞り込む点がBCPの実務的な特徴です。
なぜ今BCPが注目されるのか
BCPという考え方自体は目新しいものではありません。内閣府がBCP策定・運用を後押しする事業継続ガイドラインの初版を公表したのは平成17年(2005年)にさかのぼります。その後も社会情勢や災害の教訓を踏まえた改定が重ねられ、直近の改定版は令和5年3月(2023年3月)に公表されました。(参照:企業防災のページ | 内閣府防災情報のページ)
この事業継続ガイドラインは、特定の災害だけを対象にしたものではなく、「あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応」を掲げている点が特徴です。地震や風水害といった自然災害はもちろん、新型コロナウイルス感染症のような感染症の流行、ランサムウェア攻撃をはじめとするサイバーインシデントまで、企業の事業継続を脅かすリスクは年々多様化しています。BCPが想定すべき対象は、自然災害に限らず広がっているのが実情です。
冒頭で触れた事業継続ガイドライン改定検討会は、こうした状況を踏まえた見直しの場です。南海トラフ地震や首都直下地震の被害想定の見直しに加えて、BCPに取り組む企業が社会的に評価される環境づくりも検討対象に含まれています。
| 概念 | 主な目的 | 策定・運用主体 | 位置づけ |
|---|---|---|---|
| BCP(事業継続計画) | 災害等発生後も重要業務を中断させない、または早期に復旧させる | 個々の企業・組織 | 具体的な行動計画(ドキュメント) |
| BCM(事業継続マネジメント) | BCPの策定・訓練・見直しを継続的に回す | 個々の企業・組織 | PDCAを含むマネジメント活動全般 |
| 地域防災計画 | 住民の生命・身体・財産を災害から守る | 都道府県・市区町村(災害対策基本法に基づく) | 行政による公的な防災計画 |
BCPと混同されやすい概念の整理
BCMとの違い
BCPとしばしば並んで語られるのが、BCM(Business Continuity Management、事業継続マネジメント)です。内閣府は事業継続ガイドラインの中で、「ここでいう計画とは、単なる計画書の意味ではなく、マネジメント全般を含むニュアンスで用いられている。マネジメントを強調する場合は、BCM(Business Continuity Management)とする場合もある」と説明しています。
つまりBCPが「計画書という成果物」を指すのに対し、BCMは計画の策定から訓練、評価、見直しまでを継続的に回す「経営活動そのもの」を指す言葉です。BCPを一度作って終わりにするのではなく、定期的な訓練や見直しを通じて実効性を高めていく取り組み全体がBCMと理解すると整理しやすいでしょう。実際に内閣府のページでも、BCPの訓練・演習に関する手引きや実施報告書が公開されており、策定後の運用まで見据えた情報提供が行われています。
地域防災計画との違い
もう一つ混同されやすいのが、自治体が策定する地域防災計画です。地域防災計画は、災害対策基本法を根拠として都道府県・市区町村が策定する行政計画で、住民の生命・身体・財産を災害から守ることを主目的としています。
これに対しBCPは、あくまで個々の企業・組織が自社の事業継続を目的に策定するものであり、対象や策定主体が異なります。ややこしいことに、国の中央省庁や地方公共団体も、災害時に自らの行政機能を維持するための計画として「業務継続計画」という同じ略称のBCPを策定しています。企業の担当者が「BCP」という言葉を耳にした場合、それが自社の事業継続計画を指すのか、行政の業務継続計画を指すのかを文脈で見極める必要がある点も、覚えておくと良いでしょう。
BCP策定の基本的な流れ
内閣府は、BCP策定に向けて次の3つのステップを示しています。
- 自社が被る可能性のある災害被害を想定する
- 策定の参考となる情報を収集する
- 自社と取引先の安心・信用を得るためのBCPを作成する
BCPは作成して終わりではなく、実効性を確認するための訓練が欠かせません。内閣府のページでは、「被害予測の難しい災害への対応では、訓練を繰返し行うことにより対応能力を向上させることが大切」だとしたうえで、企業間のサプライチェーンを想定した連携訓練の手引きや実施報告書を公開しています。
もっとも、国内企業のBCP策定は決して進んでいるとは言えない状況が続いてきました。内閣府が平成20年(2008年)1月に実施した調査では、BCPの策定率は大企業で約2割、中堅企業で約1割にとどまっていたことが示されています。この数値は18年近く前の調査であり、現在の水準をそのまま表すものではない点には注意が必要です。
より近年の状況を示す民間調査としては、帝国データバンクが2025年5月に実施した「BCPに対する企業の意識調査」があります。全国26,389社を対象に実施され、10,645社(回答率40.3%)から得られた回答によると、BCPを「策定している」と回答した企業は20.4%で、2016年の調査開始以降、初めて2割を超える水準となりました。「現在、策定中」7.4%、「策定を検討している」22.0%を合わせた「策定意向あり計」は49.8%にのぼります。
もっとも、企業規模による差は依然として大きいのが実情です。同調査では「策定している」と回答した企業の割合が大企業で38.7%だったのに対し、中小企業では17.1%にとどまりました。2019年以降、大企業・中小企業とも策定率は緩やかな上昇を続けているものの、2025年時点でも中小企業の策定率は大企業の半分に届かない水準であり、規模間の格差は縮まっていません。自社が中堅・中小規模であれば、この数値をまさに自社が置かれた状況として受け止める必要があるでしょう。(参照:事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2025年) | 帝国データバンク)
自社のBCPを見直すためのポイント
ここまで見てきたように、BCPは策定して終わりではなく、BCMという継続的な運用があってはじめて実効性を持ちます。自社に「BCPがある」と聞いていても、それが数年前に作成されたまま更新されていなかったり、担当者しか内容を把握していなかったりするケースも少なくありません。総務・安全管理やDX推進を担当する立場であれば、自社のBCPが次のような状態になっていないか、一度点検してみることをおすすめします。
- 直近の組織改編や取引先の変化を反映した内容に更新されているか
- 目標復旧時間を設定した重要業務が、現在の事業実態と合っているか
- 訓練や演習を通じて、計画が実際に機能するか確認できているか
- 自然災害だけでなく、感染症やサイバー攻撃など複数のリスクを想定できているか
なお、2026年7月には防災庁の設置根拠となる法律が公布されるなど、国の防災行政の体制そのものも見直しが進んでいます。司令塔機能の一元化が企業のBCP運用に直ちに影響するわけではありませんが、行政側の相談窓口や支援制度が今後再編される可能性はあります。国の防災体制の変化については、「2026年設置予定の防災庁とは?これまでの経緯と役割、最新動向を解説」でも取り上げていますので、あわせてご参照ください。
まとめ
BCPとは、災害や事故が起きた際にも重要業務を止めない、または早期に再開させるために企業があらかじめ定めておく経営戦略です。計画書としてのBCPと、その策定・訓練・見直しを継続的に回す活動を指すBCM、そして住民の安全を目的に自治体が策定する地域防災計画は、それぞれ目的も策定主体も異なる別の概念として整理しておくことが大切です。
内閣府は2026年7月に事業継続ガイドラインの改定検討にも着手しており、南海トラフ地震などへの備えを念頭にBCPをめぐる環境は今後も変化していくと見込まれます。自社のBCPが実態に即した内容になっているか、この機会に確認しておくと良いでしょう。