OSINT(オシント)とは?公開情報からできることを解説

OSINT(オシント)とは?公開情報からできることを解説

2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、SNS上の投稿や衛星画像といった「誰でもアクセスできる公開情報」を分析し、戦況や事実関係を明らかにする調査手法への注目が高まっています。安全保障の分野に限らず、報道機関の調査報道や、企業のリスク管理・サイバーセキュリティの現場でも、こうした手法を指す「OSINT(オシント)」という言葉を耳にする機会が増えてきました。

ではOSINTとは具体的に何を指し、どのような場面でどのような情報収集・分析が可能なのでしょうか。本記事では、OSINTの定義と歴史的背景を整理したうえで、活用されている分野と、実際にできることを解説します。

この記事のポイント
  • OSINTは合法的に入手できる公開情報のみを情報源とする調査・分析手法
  • SNSや商用衛星画像の普及を背景に2010年代以降に活用範囲が拡大
  • 安全保障・報道・企業のリスク管理まで幅広い分野で応用が進む

OSINTとは何か

OSINTとは「Open Source Intelligence」の略称で、日本語では公開情報インテリジェンスと訳されます。インテリジェンスとは、特定の目的のために断片的な情報を収集・分析し、意思決定に役立つ知見へと変換する活動のことです。新聞・テレビの報道、政府機関の公式発表、企業のプレスリリース、SNS上の投稿、衛星画像、法人登記情報など、誰でも合法的に入手できる公開情報を組み合わせ、単独の情報だけでは見えてこない事実関係や傾向を明らかにする手法がOSINTにあたります。

不正に入手した非公開情報を扱うスパイ活動とは異なり、あくまで公開されている情報のみを対象とする点が特徴です。防衛省防衛研究所(NIDS)研究員の本山功氏は、公開情報分析には固定建造物の被害検知などに有効性がある一方、衛星画像の入手が民間企業や各国政府の判断によって制限される「シャッターコントロール」という制約があることや、移動物体の検出には不向きといった限界があると指摘しています。OSINTは万能の手法ではなく、複数の情報源・専門知を組み合わせてはじめて精度が高まる分析手法だといえます。(参照:シャッターコントロールを超えて――公開情報分析の可能性と限界―― | 防衛研究所NIDS)

OSINTが注目されるようになった背景

公表された新聞・放送等の情報を分析する手法自体は、安全保障・外交の現場で以前から用いられてきました。この位置づけが大きく変わったのが2010年代です。スマートフォンとSNSの普及により、紛争地や災害現場から一般市民が撮影した写真・動画がリアルタイムで発信されるようになり、商用の衛星画像サービスも民間企業が比較的手軽に入手できる環境が整ってきました。

こうした環境変化のなかで2014年に設立されたのが、調査報道団体のBellingcatです。独立した研究者・調査員・市民ジャーナリストの集まりと自らを位置づける同団体は、SNS投稿や衛星画像などの公開情報のみを情報源として、ロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏への毒殺未遂事件の実行者特定に取り組んだことで広く知られています。2020年には、The Insider、Der Spiegel、CNNと共同で、携帯電話の通信記録や航空券の予約データといった情報を突き合わせ、ナワリヌイ氏を長期間監視していたロシア連邦保安庁(FSB)の工作員チームを特定したと報じました。こうした活動を通じ、OSINTという手法を一般に広める役割を果たしたといわれています。(参照:FSB Team of Chemical Weapon Experts Implicated in Alexey Navalny Novichok Poisoning | Bellingcat)

2022年以降のウクライナ侵攻では、各国のシンクタンクや政府系研究機関も、衛星画像や公開情報を用いた分析を積極的に発信するようになりました。米シンクタンクCSISは「Hidden Reach」というプログラムを通じ、衛星画像とオープンソースデータを組み合わせて、中国の造船所における空母建造の進捗状況などを継続的に分析・公表しています。(参照:Hidden Reach | CSIS)

AIS Insight

Bellingcatによるナワリヌイ氏の調査は、OSINTを象徴する代表事例として紹介されることが多いものの、その内実を原典に当たって確認すると見落としやすい点があります。実行者特定の決め手となった航空券の予約データについて、Bellingcat自身の記事本文では"previously leaked offline databases"(過去にリークされたオフラインデータベース)から入手したものだと説明されているのです。SNS投稿や政府機関の公式発表のように、誰もが合法的にアクセスできる公開情報とは性質が異なり、実際には非公開情報の流出データも組み合わされていたことになります。OSINTの成功例として広く語られる調査であっても、「合法的に入手できる公開情報のみ」という定義の枠を厳密には超えた手法が併用されていたという点は、OSINTという言葉を扱ううえで意識しておきたいポイントです。

どのような分野で活用されているか

安全保障・防衛分野

各国の政府機関やシンクタンクは、機密情報だけでなく公開情報も組み合わせて分析することで、情報の全体像をより正確に把握しようとしています。前述の防衛省防衛研究所・本山氏は、無償で入手できる合成開口レーダー(SAR)画像を用い、紛争地域における建造物の破壊状況を統計的に検知する手法を検証しており、公開情報分析が安全保障分野の実務に取り入れられつつある実例といえます。

報道・調査ジャーナリズム

Bellingcatは、紛争・人権侵害の追跡だけでなく、野生動物の違法取引や組織犯罪、ディープフェイクなどのデジタル上の問題まで、公開情報を用いた調査対象を広げています。国際的な事実検証ネットワークからの賞を受けるなど、調査報道の一分野としての地位を確立しつつあります。(参照:Bellingcat)

企業のリスク管理・サイバーセキュリティ

企業のリスク管理においても、取引先や競合の実態を公開情報から把握する考え方は応用できます。単一の情報源に頼らず、複数の公開情報を横断的に照合するというアプローチは、サプライチェーンリスクの点検や取引先の実態把握にも応用できる考え方です。

OSINTで具体的に何ができるのか

OSINTの情報源は多岐にわたります。代表的な公開情報の種類を整理すると、次のようになります。

情報源の種類具体例
報道・メディア情報新聞、テレビ、専門メディアの記事
公的機関の公開情報政府・自治体の公式発表、統計、法人登記情報、法令データベース
衛星画像・地理空間情報商用衛星画像、SAR画像、GIS(地理情報システム)データ
SNS・動画投稿X(旧Twitter)、YouTube等への投稿・位置情報
企業・組織の公開情報IR資料、採用情報、特許情報、公式サイト
法的記録起訴状、判決文、行政処分に関する公表情報

これらの情報を組み合わせることで、画像の撮影場所や時期の特定、地形・建造物の変化検知、組織間の関係性の可視化といった分析が可能になります。海外では、こうした調査に使えるツールや情報源を分野別に整理したOSINT Frameworkのような無償リソース集も、有志のコミュニティによって公開・更新されています。(参照:OSINT Framework)

OSINT調査で使われる代表的な手法
  • 逆画像検索による画像の撮影場所・時期の特定
  • 衛星画像・SAR画像を用いた地形や建造物の変化検知
  • 複数の公開文書・報道の突き合わせによる事実関係の裏付け

まとめ

OSINTは、合法的に入手できる公開情報を組み合わせて事実関係や傾向を明らかにする調査・分析手法です。もとは安全保障・外交分野の情報活動の一部でしたが、SNSや商用衛星画像の普及を背景に2010年代以降活用の幅が広がり、Bellingcatのような調査報道団体や各国のシンクタンク、政府系研究機関でも積極的に用いられるようになりました。安全保障や報道の話題として語られがちなOSINTですが、その基本的な考え方は、自社の情報公開の見直しや取引先リスクの把握など、企業のリスク管理業務にも応用できるものです。ドローンやGISを活用した地理空間情報の分析と合わせて、今後も注目しておきたい分野といえるでしょう。

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