2026年7月31日には内閣情報調査室を改編した国家情報局が発足するなど、日本の情報機能の強化が話題になっています。こうした報道のなかで、「インテリジェンス」に加えて「カウンターインテリジェンス」という用語を見聞きする機会も増えてきました。内閣情報調査室にはもともとカウンターインテリジェンス・センターという専門部署が置かれており、この機能は国家情報局にも引き継がれる見通しです。(参照:内閣情報調査室 | 内閣官房)
しかしカウンターインテリジェンスということばは、スパイ映画のような漠然としたイメージで語られがちで、通常のインテリジェンスと何が違うのか、対象や目的の観点から正確に説明できる人は多くありません。両者を混同したままでは、国家情報局のような組織改編の意味も理解しづらくなってしまいます。
本記事では、カウンターインテリジェンスの定義を政府の一次資料から整理したうえで、通常のインテリジェンスとの違いを対象・目的の両面から明確にします。あわせて、経済安全保障の文脈で企業にも関わってくる技術流出リスクについても解説します。
- カウンターインテリジェンスは自国・自組織の情報や人材を守る防御的活動
- インテリジェンスは外国の動向等を収集・分析し意思決定に活かす活動
- 2007年策定の基本方針に基づき内閣情報調査室にCIセンターを設置
カウンターインテリジェンスとは何か
「カウンターインテリジェンス」とは、直訳すると「対情報」や「防諜」にあたり、外国の情報機関やスパイ活動など、自国・自組織を情報収集の標的とする相手から、重要な情報や職員を守るための活動を指します。
日本では2007年8月9日、カウンターインテリジェンス推進会議が「カウンターインテリジェンス機能の強化に関する基本方針」を決定しました。この基本方針は、カウンターインテリジェンスに関する各行政機関の施策を統一し、推進体制を確立することで、国の重要な情報や職員等の保護を図ることを目的として掲げています。基本方針に基づき、内閣情報調査室には内閣情報官をセンター長とするカウンターインテリジェンス・センターが置かれ、政府全体の防諜施策の中核を担ってきました。(参照:カウンターインテリジェンス機能の強化に関する基本方針の概要 | 内閣官房)
このセンターは、特定秘密など秘密保全を必要とする情報の管理徹底や、行政機関を狙ったサイバー攻撃への対応強化といった役割も担っています。2007年の基本方針からすでに18年以上が経過していますが、現在も同じ枠組みのもとでセンターが運用されていることが、内閣官房の現行ページからも確認できます。(参照:内閣情報調査室 | 内閣官房)
インテリジェンスとの違い 対象と目的で整理する
カウンターインテリジェンスを理解するうえで欠かせないのが、通常のインテリジェンスとの違いです。両者は同じ「情報」を扱う活動でありながら、対象と目的がまったく異なります。
インテリジェンス 情報を集めて意思決定に活かす活動
インテリジェンスとは、特定の目的のために断片的な情報を収集・分析し、意思決定に役立つ知見へと変換する活動のことです。対象となるのは、外国政府の動向や国際情勢、軍事情勢など、自国の「外」に向いた情報が中心になります。目的は、政策判断や安全保障上の意思決定に必要な材料を得ることにあります。日本ではこれまで内閣情報調査室が、省庁横断の情報収集・分析機能の中核を担ってきました。(参照:内閣情報調査室 | 内閣官房)
カウンターインテリジェンス 情報を守る防御的な活動
一方でカウンターインテリジェンスは、外国の情報機関やスパイ活動など、自国・自組織を情報収集の対象とする相手から、重要な情報や人材を守るための活動です。対象となるのは自国内部、つまり政府機関や企業、研究機関などの情報管理体制そのものであり、目的は機密情報の漏えい防止や、不正な働きかけの排除にあります。前述の基本方針が「国の重要な情報や職員等の保護」を目的に掲げている通り、インテリジェンスが「攻め」の活動だとすれば、カウンターインテリジェンスは「守り」の活動と整理できるでしょう。
両者の違いを整理すると、次のようになります。
| 項目 | インテリジェンス | カウンターインテリジェンス |
|---|---|---|
| 主な対象 | 外国政府の動向、国際情勢など「外」の情報 | 自国・自組織の情報管理体制、人材など「内」の防御 |
| 主な目的 | 意思決定に役立つ知見の獲得 | 情報漏えい・スパイ活動の防止 |
| 活動の方向性 | 収集・分析(攻め) | 防御・保全(守り) |
| 日本の主な担い手 | 内閣情報調査室(2026年7月31日以降は国家情報局) | 内閣情報調査室のカウンターインテリジェンス・センター |
なぜ今カウンターインテリジェンスが重要なのか
カウンターインテリジェンスが改めて注目される背景には、経済安全保障をめぐる環境の変化があります。警察庁は、地政学上のリスクが顕在化し国際的な産業競争が激化するなか、日本国内の企業や大学が持つ最先端技術が外国から狙われるリスクが高まっていると説明しています。技術情報を入手して自国産業の強化や軍事技術への転用を図ろうとする動きが背景にあるといいます。(参照:技術流出防止に関する取組 | 警察庁)
同庁は、技術流出につながる手口を大きく3パターンに整理しています。
- サイバー攻撃・不正アクセスによる情報の直接窃取
- SNS上の接点や贈り物などを通じた人間関係の構築によるスパイ工作
- 合弁事業や企業買収、共同研究など合法な経済・学術活動を隠れ蓑にした情報収集
これらはいずれも、企業や研究機関が意図せず情報収集の標的にされ得ることを示す例です。大企業や防衛関連企業に限らず、独自技術を持つ中小企業や大学の研究室も対象になり得る点には注意が必要でしょう。
カウンターインテリジェンスと聞くと、政府機関同士の駆け引きという印象が強く、自社には関係のない話だと感じる読者も多いかもしれません。「守るべき情報を自覚し、社外との接点を適切に管理する」という発想自体は、国家レベルの防諜活動と中小企業のリスク管理とで、規模こそ違えど本質的には同じだといえるのではないでしょうか。
企業のリスク管理への示唆
ドローンやGIS、位置情報関連のサービスを扱う企業にとっても、カウンターインテリジェンスの考え方は無縁ではありません。自社の技術・設計情報や顧客の位置情報データは、性質によっては海外の競合、場合によっては情報収集を目的とする組織にとって価値のある情報になり得ます。
実務的な対策としては、社内でどの情報が「守るべき機密」にあたるかを整理すること、SNSや学会・展示会での接点を通じた不審な働きかけに気づける社員教育を行うこと、共同研究や資本提携の相手先の実態を事前に確認することなどが挙げられます。公開情報を横断的に確認する手法については、以前の記事「OSINT(オシント)とは?公開情報から何ができるかを解説」でも取り上げていますので、自社の情報管理を見直す際の参考にしていただければと思います。
まとめ
カウンターインテリジェンスとは、外国の情報機関やスパイ活動から、自国・自組織の重要な情報や人材を守るための防御的な活動です。国際情勢の分析等を通じて意思決定に役立つ知見を得る通常のインテリジェンスとは、対象が「外」か「内」か、活動の方向性が「攻め」か「守り」かという点で明確に異なります。日本では2007年の基本方針に基づき内閣情報調査室にセンターが置かれ、2026年7月31日発足の国家情報局にもその機能が引き継がれる見通しです。経済安全保障の文脈で技術流出リスクが高まるなか、自社の情報管理体制を見直すきっかけとして、カウンターインテリジェンスという考え方を知っておくとよいでしょう。国家情報局については、以前の記事「リアルVIVANT?スパイ機関?今月発足の国家情報局とは何かを改めて説明」でも詳しく解説しています。