2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、市販のドローンや商用衛星画像、スマートフォン向けアプリといった、もともと民生用に開発された技術が、戦場での偵察や部隊の動きの把握に使われる場面が世界的に注目されるようになりました。半導体の輸出管理をめぐる各国間の摩擦や、日本国内での経済安全保障関連の法整備が進むなかで、「デュアルユース」という言葉を見聞きする機会も増えています。
デュアルユースとは具体的に何を指し、どのような技術が対象になり、日本の輸出管理制度とどう関わっているのでしょうか。ニュースで断片的に触れる機会はあっても、正確に説明できる人は多くないかもしれません。
本記事では、デュアルユースの定義を整理したうえで、近年注目される背景と、ドローン・AI・GPS・GISといったAISの読者に馴染み深い技術がなぜ該当し得るのかを解説します。あわせて、日本の安全保障貿易管理制度との関係も確認します。
- デュアルユースは民生・軍事の両方に転用し得る技術・貨物を指す概念
- 外為法に基づく輸出貿易管理令はリスト規制とキャッチオール規制の2本立て
- ドローン・AI・GPS・GISなどAISの読者に身近な技術も対象になり得る
デュアルユースとは何か
デュアルユース(dual-use)とは、直訳すると「二重の用途」を意味し、民生(商業・研究など)と軍事の両方に利用できる技術・製品・貨物のことを指す概念です。特定の技術それ自体が「軍事用」「民生用」とあらかじめ色分けされているわけではなく、同じ技術であっても使われ方次第で双方の用途を持ち得る、という点がポイントになります。
この概念を運用面で支えているのが、国際的な輸出管理の枠組みです。日本国際問題研究所の研究員である髙山嘉顕氏は、2026年6月24日付の論考で、ワッセナー・アレンジメント(WA)について「依然として主要なデュアルユース輸出管理の枠組み」だと位置づけています。WAは、通常兵器および関連するデュアルユース品目・技術の輸出管理に関する国際的な合意の枠組みで、参加国がそれぞれ自国の国内法制に基づいて輸出管理を実施する仕組みです。(参照:MATCH法と「挟撃の経済安全保障」-対中半導体輸出管理の立法化と日本への政策的試練- | 日本国際問題研究所)
日本の法制度上も、明示的に「デュアルユース」という語こそ使われていないものの、これに近い考え方が組み込まれています。2022年に制定された経済安全保障推進法は、第61条で「特定重要技術」を「外部から行われる行為により国家及び国民の安全を損なう事態を未然に防止するために、その開発が特に必要と認められる重要な技術」と定義しています。民間で開発される先端技術のなかから、安全保障上の重要性が高いものを政令等で指定していく仕組みであり、デュアルユースという発想と重なる部分が大きいといえるでしょう。(参照:経済安全保障推進法 | e-Gov法令検索)
なぜ今デュアルユースが注目されているのか
デュアルユースへの関心が高まっている背景には、地政学的な緊張の高まりがあります。前述の髙山氏の論考では、ロシアによるウクライナ侵略以降、ワッセナー・アレンジメントの合意形成機能が低下していると指摘されています。全会一致を原則とする多国間の枠組みでは、参加国であるロシアの合意を得ることが事実上困難になり、新規品目の追加などが停滞しやすくなっているという課題です。こうした機能不全を補う形で、米国では対中半導体輸出管理を法制化するMATCH法のような、多国間合意によらない独自の規制強化の動きも出てきています。
日本国内でも、こうした国際情勢を踏まえて経済安全保障関連の法整備が進められてきました。前述の経済安全保障推進法は、特定重要技術の開発支援制度(第60条〜第64条)を設け、主務大臣が認定した開発計画に対して資金の助成や出資などの支援を行う仕組みを整えています。安全保障上重要な先端技術の開発を、民間の力も借りながら国内で育てていこうとする狙いがあるといえます。
具体的にどのような技術が該当するのか
デュアルユースに該当し得る技術の範囲は幅広く、AISの読者が日頃扱っているドローンやAI、位置情報関連の技術も無縁ではありません。
- ドローン(無人航空機)による偵察・輸送・自律飛行技術
- AI(人工知能)による画像認識・自律判断技術
- GPS等の衛星測位(GNSS)技術
- GIS・商用衛星画像などの地理空間情報技術
ドローン(無人航空機)
日本の輸出管理制度の根拠となる輸出貿易管理令の別表第一には、規制対象となる貨物の分野の一つとして「300km以上の射程を持つロケット・無人航空機」が明記されています。長距離を飛行できるドローンは、ミサイル関連技術の規制と同様の考え方でリスト規制の対象になり得るということです。もちろん、市販の点検・測量用小型ドローンの多くはこの射程要件には該当しませんが、後述するキャッチオール規制の枠組みでは、用途や輸出先次第で許可が必要になる可能性がある点に注意が必要です。(参照:輸出貿易管理令 | e-Gov法令検索)
AI(人工知能)
AIは、画像認識や自律判断の技術として、インフラ点検や物流の効率化といった民生分野で広く実装が進む一方、目標の識別や自律的な意思決定支援といった軍事的な文脈でも応用が議論されている分野です。輸出貿易管理令の別表第一にはAI固有の項目が明示されているわけではありませんが、経済安全保障推進法が想定する特定重要技術の対象分野には、AIを含む先端技術領域が今後政令等を通じて加わっていく可能性があると考えられます。個別の品目・技術がリスト規制の対象に含まれるかどうかは、政令の改正状況を都度確認する必要があるでしょう。
GPS・衛星測位
GPSに代表される衛星測位(GNSS)技術は、カーナビやスマートフォンの位置情報サービスからドローンの自律飛行まで、幅広い民生サービスの基盤になっています。同時に、精密誘導兵器の管制や部隊の位置把握といった軍事用途にも使われており、デュアルユース技術の代表例として語られることが多い分野です。位置情報を扱う製品・サービスを開発する企業にとっては、身近な技術が実は国際的な安全保障の議論と地続きであることを意識しておく価値があります。
GIS・衛星画像データ
地理情報システム(GIS)や商用衛星画像も、デュアルユースの文脈でたびたび取り上げられる分野です。防衛研究所(NIDS)のコメンタリーでは、衛星画像の入手が民間企業や各国政府の判断によって制限される「シャッターコントロール」という制約があることが指摘されています。高解像度の衛星画像が安全保障上重要な情報を含み得るからこそ、商業サービスとして自由に流通させることに一定の制約が設けられているのです。(参照:シャッターコントロールを超えて――公開情報分析の可能性と限界―― | 防衛研究所NIDS)
商用衛星画像の分析手法については、以前の記事「OSINT(オシント)とは?公開情報から何ができるかを解説」でも取り上げていますので、あわせてご覧ください。
レアアース・重要鉱物資源
一見すると原材料の話に見えるレアアースなどの重要鉱物資源も、近年はデュアルユースの文脈で頻繁に取り上げられる分野です。ネオジムやジスプロシウムといったレアアースは、精密誘導兵器やレーダー、ジェットエンジンといった防衛装備品にも使われる一方、電気自動車のモーターや風力発電、スマートフォンなど、私たちの生活に身近な製品にも欠かせない素材です。
日本国内でも、レアアースなどの重要鉱物は経済安全保障上の重要物資として位置づけられています。令和4年12月、経済安全保障推進法に基づき、抗菌性物質製剤や永久磁石、半導体、重要鉱物などが特定重要物資として政令で指定され、令和6年2月には既に指定されていた重要鉱物の鉱種にウランが追加されました。これを受けて、経済産業省を中心に、JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)を通じた資源探査や資源国との関係強化、リサイクル技術の開発などを通じて、レアアースやバッテリーメタルといった重要鉱物の安定供給確保に取り組む体制が整えられています。
日本の輸出管理制度との関係
リスト規制とキャッチオール規制
日本では、外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づき、安全保障上の観点から特定の貨物の輸出や技術の提供に経済産業大臣の許可を必要とする制度が設けられています。外為法第25条は、国際的な平和・安全の維持を妨げるおそれがある技術を特定の国・地域に提供する際、経済産業大臣の許可を要すると定めています。文書や記録媒体による技術情報の輸出だけでなく、電気通信による情報の送信も許可の対象に含まれる点が特徴です。(参照:外国為替及び外国貿易法 | e-Gov法令検索)
貨物の輸出については、外為法に基づく政令である輸出貿易管理令が、具体的な対象品目を定めています。この制度は大きく2つの規制方式で構成されています。
| 項目 | リスト規制 | キャッチオール規制 |
|---|---|---|
| 対象貨物・技術 | 別表第一に列挙された品目(核兵器関連物資、化学・細菌兵器製剤、300km以上の射程を持つロケット・無人航空機、精密機器・工作機械、コンピュータ関連製品など) | リストに明示されていない貨物・技術のうち、大量破壊兵器等の開発に用いられるおそれがあるもの |
| 判断基準 | 品目の仕様(性能・スペック)による該非判定 | 用途や輸出先の情報による判断 |
| 許可の要否 | 該当すれば原則として輸出許可が必要 | 経済産業大臣から許可申請をすべき旨の通知を受けた場合等に許可が必要 |
(参照:輸出貿易管理令 | e-Gov法令検索)
リスト規制は、性能・仕様があらかじめ定められた品目を機械的にチェックする方式であるのに対し、キャッチオール規制は、リストに載っていない品目であっても、輸出先や用途によっては許可が必要になり得る補完的な仕組みです。この2本立ての構造こそが、デュアルユース品目を漏れなく管理しようとする日本の輸出管理制度の骨格になっています。
中国によるレアアース輸出規制の動き
中国政府は近年、レアアースをはじめとする軍民両用(デュアルユース)品目に対する輸出管理を段階的に強化しており、2023年以降だけでもガリウムやゲルマニウム、黒鉛、アンチモンなどが相次いで規制対象に加えられてきました。特に、2025年4月に施行された7種のレアアースに関する輸出管理強化では、日本企業も輸出許可申請への対応に追われる事態となりました。
輸出管理の話題は完成品や技術そのものだけでなく、その部材となる資源の調達リスクという形でも、デュアルユースの議論とつながっているのです。中国による対日レアアース輸出規制のような直近の動向は変化が速い分野ですので、記事を公開する前に、経済産業省やJOGMECの最新情報で規制対象品目や指定物資に更新がないか確認されることをおすすめします。
ドローン・GIS関連企業にとっての示唆
自社の製品やサービスを海外へ輸出・提供する可能性がある企業にとって、デュアルユースの考え方は決して遠い話ではありません。ドローンの機体や制御ソフトウェア、GISを活用した測位・解析サービスを扱う企業は、輸出貿易管理令のリスト規制に該当しないかを事前に確認するとともに、たとえリストに載っていない製品であっても、輸出先や取引相手の実態次第でキャッチオール規制の対象になり得ることを意識しておく必要があります。
具体的には、輸出先の国・地域、取引相手の事業内容、製品の最終的な使われ方(エンドユース)について、契約段階から確認を行う体制を整えておくことが実務上のポイントになります。防衛装備品の分野では、防衛装備移転三原則のもとで移転先や用途の管理がより厳格に行われていますが、民生用途を主目的とする製品であっても、同様に「誰が」「どこで」「何のために」使うのかを把握する視点は共通しています。防衛装備移転の仕組みについては、以前の記事「防衛装備庁とは?役割と防衛装備移転の仕組みを解説」でも詳しく解説しています。
まとめ
デュアルユースとは、民生と軍事の両方に転用し得る技術・貨物を指す概念で、ドローンやAI、GPS、GIS・衛星画像といったAISの読者に馴染みのある技術も例外ではありません。日本では外為法に基づく輸出貿易管理令が、品目を明示するリスト規制と、用途・輸出先で判断するキャッチオール規制の2本立てで運用され、経済安全保障推進法による特定重要技術の開発支援制度もこれを補完しています。ワッセナー・アレンジメントの機能低下や米中間の輸出管理をめぐる摩擦など、国際的な緊張が続くなかで、この分野の制度は今後も更新が続くと見込まれます。自社の技術がデュアルユースの議論とどう関わり得るのか、輸出や海外展開を検討する際には早めに把握しておくとよいでしょう。