2026年10月、外国人による土地取得等のルールの在り方検討会(以下検討会)が、安全保障上重要な土地等の取得に関する提言を示しました。政府はこの提言をもとに、重要土地等調査法(土地利用規制法)の改正案を提出予定とされています。
防衛施設周辺や国境離島をめぐる「土地取得規制」は、「すでにある法律と何が違うのか」「もう決まったのか」が分かりにくいテーマです。本記事では、2026年10月時点の情報をもとに、現行法と提言を区別しながら、なぜ取得段階の規制が議論されているのかを紹介します。
- 現行法は重要土地等調査法で、中心は取得後の土地の「利用」への規制
- 許可制などの取得規制は提言の段階で、確認した資料の範囲では法制化されていない
- 提言の目的は外国人の排除ではなく、日本人・日本法人も対象になり得ると明記
現行法と提言の違いを整理する

まず押さえたいのは、すでに動いている制度と、これから議論される制度を分けて考えることです。現行の法律は、令和3年に制定され、令和4年9月20日に全面施行された重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律(重要土地等調査法)です。
この法律では、防衛関係施設などの周囲おおむね1,000mや国境離島等を「注視区域」に、とりわけ重要な施設の周辺や無人の国境離島などを「特別注視区域」に指定し、土地・建物の利用状況を調べます。機能を阻害する行為があれば、中止などを求める勧告・命令を行う仕組みです。
特別注視区域では、200平方メートル以上の土地等の所有権移転などに事前届出が必要です。ただし提言は、取得段階の対応がこの事前届出にとどまっており、安全保障上懸念のある土地等の利用を事前に抑止する仕組みとしては十分とは言い難いとしています。
今回の提言は、この法律の改正によって取得段階の新たな規制を設けることが適切だとしています。両者の違いを表にまとめます。なお、提言の内容はあくまで検討会の考え方であり、現時点でそのまま制度化されたものではありません。
| 項目 | 現行法(重要土地等調査法) | 提言(令和8年10月) |
|---|---|---|
| 着目点 | 取得後の土地等の利用 | 土地等の取得そのもの |
| 取得段階の措置 | 特別注視区域で200㎡以上の取引に事前届出 | 面積要件を設けない許可制 |
| 対象区域 | 注視区域・特別注視区域 | ドローン攻撃への対処の必要性が特に高い特定重要施設の周囲(概ね1,000m)、無人の国境離島 |
| 命令 | 勧告の後に命令 | 緊急時は勧告を前置せず命令 |
(参照:重要土地等調査法 | 内閣府、安全保障上重要な土地等の取得等に関するルールの在り方について 提言 | 内閣官房)
なぜ「取得段階」の規制が必要とされるのか
本記事では、現行の利用規制だけでは足りない理由を、提言内容にそって次の4点にまとめました。
新しい戦い方で土地と安全保障が結びつく
提言は、ロシアによるウクライナ侵攻で民生用にも使えるドローンが大規模に運用された例を挙げ、小型で安価な無人機が戦闘に大きく影響し得ると指摘しています。基地周辺の小規模な拠点から発射されたドローンが防空をすり抜け、装備品を破壊する事態も想定され、周囲の土地が懸念ある行為に自由に使われると防ぎにくいため、「土地の利用と安全保障が密接に結びつく時代」だと位置づけています。
活動拠点化リスクは既存法令で防ぎにくい
提言では、安全保障上懸念のある主体が重要施設周辺の土地を取得して不適切に使う場合のリスクが4つに類型化されています。
| リスク類型 | 内容 | 提言内容 |
|---|---|---|
| 保全リスク | 自衛隊等の動向の収集・分析 | 部隊運用の工夫で対応 |
| 運用妨害リスク | 通信や安全な飛行・航行の妨害 | 重要土地等調査法の運用強化で対応 |
| 武器等の製造・集積拠点化リスク | 侵攻の拠点等への転用 | 武器・爆発物規制や刑事関係法令の執行で対応 |
| 活動拠点化リスク | 重要な装備品への攻撃の拠点化 | 既存法令では防ぎきることが困難 |
とくに活動拠点化リスクは、攻撃の準備が秘密裏に進められるおそれがあり、一度土地が取得された後では十分な対応が難しくなると述べ、取得段階で関与する必要性が指摘されています。
取得後の是正が難しい(不可逆性)
土地は単なる私有財産にとどまらない公共性の高い財で、不適切な利用が生じると原状回復が極めて困難になる「不可逆性」(一度起きると元に戻せない性質)があると、提言は指摘しています。
では、なぜ協議制ではなく許可制なのでしょうか。提言によれば、協議制では、脅威となる目的の者が自ら意図を明かすことは通常想定されず、準備行為も秘密裏に行われるため、リスクの把握に限界があります。許可制であれば、懸念のある取得は効力の発生自体を止められる、というのが理由です。
無人の国境離島は監視が難しい
無人の国境離島は、周囲の目が行き届かず、領海の基線に関わる低潮線(最も潮が引いたときの海岸線)付近の大規模な形質変更(土地の形や性質を変えること)を事前に把握することが著しく困難です。提言では、利用が顕在化した後の対応には限界があるため、取得段階でリスクを抑える必要性が高いと述べています。
提言が示す取得規制:土地取得を「許可制」に
提言は、重要施設周辺の飛行禁止区域が令和8年6月の改正で概ね1,000mに拡大されたことに触れ、それより近い地点からの攻撃を防ぐ意図で規制区域の範囲を考えています。あわせて、皇居や国会議事堂、首相官邸などを重要施設に追加する検討も求めており、対象や手続きについて次のような方向性を示しています。
- 対象区域:特定重要施設のうちドローン攻撃への対処の必要性が特に高い施設の周囲(概ね1,000mを基本)と、無人の国境離島
- 面積要件:攻撃用ドローンの集積・離陸は200㎡未満でも可能なため、設けない
- 対象権利:所有権の取得は許可制。賃借権などの使用収益権(土地を借りて使う権利など)は立入調査や新たな届出制度で実態を把握。相続は許可の対象外
- 実効性の担保:無許可の所有権移転は無効(効力なし)とし、登記の申請は却下、罰則も設ける。法人の合併や支配関係(出資や役員構成を通じた影響力)の変動は届出
- 調査・命令:取得規制区域での内閣府職員による立入調査、緊急時の勧告を前置しない命令
「外国人の排除」ではないという点
政府の検討会:属性に着目する設計
この議論は「外国人による土地取得」の文脈で語られがちですが、提言の立場は異なります。検討会が一貫して重視したのは「脅威の主体は外国人そのものではない」という点だと、提言は述べています。制度の目的は外国人を排除することではなく、取得しようとする者の属性に着目し、その土地が安全保障を害する活動に利用されるおそれを評価することにある、という考え方です。
実際、対象者は国籍で一律に決めません。日本人・日本法人であっても外国政府等の影響下にあれば同様の懸念が生じ得るため、実質的な支配関係や外国政府等への協力義務の有無に着目する設計が想定されています。不許可の基準としては、外国政府等の活動に極めて重要な影響力を持つ者などが例に挙がる一方、支障がないことが明らかな特段の事情があれば、例外的に許可する余地も残されています。
自民党PTの提言も国籍を問わない設計
自由民主党の外国人政策本部「安全保障と土地法制に関するPT」は、令和8年9月29日付の提言を10月1日に総理へ申し入れました。政党の提言であり、政府が決定したものではありません。
PTは、取得規制の対象区域内の所有権移転に、国籍等にかかわらず事前の許可申請を義務付け、国が審査するとしています。不許可とする対象には、外国政府等やその活動に影響力を有する者、外国の軍人、外国政府等への協力義務を負う者を挙げ、法人は実質的支配者などの場合も含めます。国際約束との関係を述べる中で、新たなルールは「特定の国籍を理由として差別的な取扱いを行うものではない」ともしています。これは、前述の検討会の提言と共通した考え方です。なお、自民党PTの提言は9月29日付で、検討会の第5回(10月2日)より前に作られています。
(参照:外国人政策本部 安全保障と土地法制に関するPTが提言を申し入れ | 自由民主党)
生活レベルの課題は別の検討が進む
地下水への影響やマンション価格など、生活に近い懸念も取り沙汰されますが、今回の検討会による提言は、これらを安全保障の議論と切り分け、本提言は安全保障に絞るとしています。国土交通省では「土地の取得・利用等の在り方に関する有識者会議」が令和8年3月に設置され、同年8月7日に提言が公表されました。この提言は、国土利用計画法に基づく土地取引の届出の対象面積の引下げなどを柱としており、冒頭で触れた重要土地等調査法の事前届出(200平方メートル以上)とは別の制度の見直しです。(参照:土地の取得・利用等の在り方に関する有識者会議について | 国土交通省)
関連法案:10月5日から不動産登記での国籍把握が義務に
2026年(令和8年)10月5日、不動産登記における国籍等の把握が始まりました。法務省は、不動産登記規則の一部を改正する省令(令和8年法務省令第23号)を同日に施行し、所有権の登記名義人となる人について、国籍等の情報を登記の手続で把握する仕組みを設けています。省令は省庁が定める法令の一種で、国会が定める法律とは異なります。
法務省の通達は、この見直しの目的を、外国人による不動産保有の実態把握に必要なためと説明しています。これまで登記では、所有者の国籍を把握する仕組みが整っていませんでした。把握された情報は非公開とされ、今後は行政機関どうしの情報連携に活用される見込みです。なお、登記情報システムの改修は、施行日以降に完了する見込みとされています。
この制度は、外国人や外国法人による不動産の取得を許可制にするものではありません。あくまで国籍等を把握するための手続を定めたものです。外国人による土地取得をめぐる検討会の提言も、10月からの登記での国籍把握に触れており、実態把握の第一歩に位置づけられています。
(参照:不動産登記規則の一部を改正する省令の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(通達) | 法務省)
生活レベルの課題は別の検討が進む
地下水への影響やマンション価格など、生活に近い懸念も取り沙汰されます。提言は、これらを安全保障の議論と切り分け、本提言は安全保障に絞るとしています。国土交通省では「土地の取得・利用等の在り方に関する有識者会議」が令和8年3月に設置され、同年8月7日に提言が公表されました。この提言は、国土利用計画法に基づく土地取引の届出の対象面積の引下げなどを柱としており、冒頭で触れた重要土地等調査法の事前届出(200平方メートル以上)とは別の制度の見直しです。
(参照:土地の取得・利用等の在り方に関する有識者会議について | 国土交通省、提言 | 内閣官房)
業務への示唆
土地や建物を扱う事業者にとって、制度が実現すれば、対象区域の不動産取引では許可の有無が取引の効力に影響する可能性があります。提言では、許可を得ない所有権移転は無効とすることが示されています。不動産、金融、物流、再エネ関連などで拠点用地を検討する企業は、対象区域の指定や、法人の支配関係に関する届出の動向を注視しておきましょう。
AIS独自の見方:今回の論点は、土地の話であると同時に、ドローンやAIといった新領域技術が、国の制度設計を動かし始めている事例だと言えます。技術の変化が「土地は誰がどう使うか」という身近な前提にまで及ぶ点は、点検や測量でドローンを使う事業者にとっても他人事ではありません。
まとめ:改正案の動向に注目
現行の重要土地等調査法は、区域の指定と利用状況の調査、勧告・命令、特別注視区域での事前届出を通じて、主に取得後の土地の「利用」を見る制度です。これに対し、許可制を柱とする取得規制は、提言で方向性が示された段階で、確認した資料の範囲では法律として成立した記載はありません。提言が重視したのは、外国人の排除ではなく、安全保障を害する活動に土地が使われることを、取得の時点で未然に防ぐことでした。
重要土地等調査法の改正案は、10月5日から始まった臨時国会内で提出される見通しです。今後の動きに注目です。