防衛装備品の共同開発や防衛装備移転の広がりとともに、防衛関連事業者が外国政府・外国事業者の秘密情報に触れる機会が増えています。こうした変化を背景に、防衛装備庁は2025年7月1日、事業者の情報保全体制に関する手続を抜本的に見直す新制度「防衛事業適合事業者制度」を施行しました。あわせて、秘密保全体制そのものを評価する「認証制度」も新設されています。
防衛産業への参画を検討している、あるいは既に防衛装備庁と契約実績のある事業者にとって、この制度は保全手続の負担や契約のあり方を左右する重要な仕組みです。本記事では、制度創設の背景から、そもそも認証制度とはどのような仕組みなのか、混同されやすい「認証事業者」と「防衛事業適合事業者」の違い、秘密情報の区分ごとの扱い、そして「何から何へ移行するのか」という移行の中身とスケジュール、申請の流れを、防衛装備庁が公表する一次資料に基づいて整理します。
- 防衛装備庁が2025年7月1日に施行した新制度、諸外国の事業者クリアランスの考え方を踏まえ保全手続を一元化
- 「認証」は秘密保全体制の任意の事前確認、実際に秘密等を取り扱うには別途「防衛事業適合事業者契約」の締結が必要
- 調達契約ごと・秘密区分ごとの特約を組織単位の一つの契約にまとめる移行、令和9年6月末までの申請で書類簡素化、令和9年度末に旧制度廃止
制度創設の背景
防衛装備庁は制度創設の理由に、懸念国による情報活動が巧妙化・活発化し、情報保全環境が厳しさを増していることを挙げています。加えて、諸外国との装備品等の共同開発や防衛装備移転等を通じ、防衛事業者が外国政府・外国事業者と秘密情報等を取り扱う機会そのものが増加していることも背景にあります。
こうした状況を踏まえ、防衛装備庁は諸外国で導入されている「事業者クリアランス(Facility Security Clearance)」の思想に基づき、新しい制度を構築しました。事業者クリアランスとは、個別の契約ごとに保全審査を行うのではなく、事業者・事業所単位であらかじめ秘密保全体制を審査・認証しておく仕組みを指します。防衛装備庁は本制度の目的として、①防衛省の秘密情報等を取り扱う事業者の業務効率化、②グローバル・スタンダードに合致した保護措置との両立の2点を掲げています。
制度の根拠となるのは、令和7年防衛装備庁訓令第19号として定められた防衛事業適合事業者制度等に関する訓令と、その実施要領です。この訓令は令和7年6月30日に防衛装備庁長官の決裁を経て制定され、附則により令和7年7月1日から施行されています。(参照:防衛装備庁訓令第19号(防衛事業適合事業者制度等に関する訓令) | 防衛装備庁)
「認証事業者」と「防衛事業適合事業者」の違い

この制度を理解するうえで最も混同されやすいのが、「認証事業者」と「防衛事業適合事業者」という2つの言葉の違いです。名称は似ていますが、指している状態はまったく異なります。違いを理解するために、まず「認証制度とは何か」を単独で押さえておきましょう。
認証制度とは 秘密保全体制の「事前のお墨付き」

訓令における「認証」とは、事業者の秘密保全体制について、防衛装備庁が別に定める「秘密保全基準」を満たしていることを証明することです。認証事業者とは、この秘密保全基準に照らして、防衛装備庁長官が認証した事業者を指します。ポイントは、具体的な調達契約の有無にかかわらず、自社の秘密保全体制そのものについて、あらかじめ防衛装備庁の確認を得ておくという点です。いわば任意の「事前認証」制度であり、認証を受けただけでは、秘密(特別防衛秘密・特定秘密・装備品等秘密)や、秘密に該当しない防衛関連の重要情報である「保護すべき情報」を実際に取り扱うことはできません。また、認証の対象となるのは秘密の保全体制のみで、保護すべき情報については認証制度自体が存在しない点にも注意が必要です(2区分の詳細は後述します)。
認証を申請できるのは、①秘密の取扱いに関する特約条項を付した契約を防衛装備庁と締結し、自社の保全施設で現に秘密を取り扱っている、または当該契約の履行後3年以内の事業者、②秘密保全施設を有し、防衛装備庁との契約が過去5年以内に3件以上ある事業者、③その他装備政策部長が認めた事業者のいずれかです。
手続としては、事業者が管轄の地方防衛局を経由して認証申請を行い、装備政策部長による審査(必要に応じて地方防衛局調達部長等による現地調査)を経て、秘密保全基準を満たしていれば防衛装備庁長官が認証し、認証通知書・認証証明書(および認証盾・認証マーク)が交付されます。有効期間は5年で、満了日の6か月前から3か月前までの間に申請すれば、1回につき5年を上限に延長が可能です。
認証を受けるメリットは主に2つあります。第一に、認証を受けた秘密保全体制に関して認証証明書の交付を受け、認証マークを使用できることです。適合事業者契約の締結自体は不当な働きかけを防ぐ観点から公表を控える扱いになる一方、認証事業者であることは公表が可能とされています。第二に、認証事業者が後から防衛事業適合事業者契約を申し込む際、手続の一部を省略できることです。既に秘密を取り扱っている事業者であれば契約申込み時の現地調査も省略され、認証申請から3か月を経過していない場合は、組織図・役員名簿等の書類も不要になります。
なお、認証には取消しの規定もあります。秘密保全基準を満たさないことが判明し秘密を漏えいするおそれがある場合や、不正な手段で認証を受けたことが判明した場合には認証は取り消されます。また、正当な理由なく認証を受けた日から3年を経過しても防衛装備庁の競争入札に参加しない(または随意契約に応じない)場合や、同じく3年を経過しても秘密の取扱いがなかった場合にも、取り消されることがあります。(参照:防衛事業適合事業者制度の詳細 | 防衛装備庁)
防衛事業適合事業者とは 実際に情報を取り扱うための契約

引用:秘密情報等を取り扱う事業者の情報保全体制に係る手続の見直しについて | 防衛装備庁
一方の防衛事業適合事業者は、秘密または保護すべき情報を取り扱う事業に参画する意思を持ち、防衛装備庁(訓令上は装備政策部長またはその委任を受けた者。実務上の窓口は装備保全管理課長)と一元的な契約(防衛事業適合事業者契約)を締結した事業者です。契約期間は5年で、延長も可能です。つまり、認証は「体制が基準を満たしているかどうかの評価」、適合事業者契約は「実際に情報を取り扱うための契約」という役割分担になっています。(参照:防衛事業適合事業者制度に関するよくある御質問 | 防衛装備庁)
ここで重要なのは、認証事業者でなくても防衛事業適合事業者契約を申し込めることです。
秘密を取り扱う防衛事業適合事業者契約については、認証事業者のほか、秘密を取り扱う事業への参画意思を持ち、①秘密保全施設を保有する事業者、または②秘密保全施設や秘密取扱情報システムを有していないものの、保全組織等について所定の基準を満たす事業者が申込みの対象となります。
一方、保護すべき情報を取り扱う防衛事業適合事業者契約については、当該事業への参画意思を有し、防衛省による直近の情報セキュリティ実地監査結果が良好であることなどが求められます。認証は秘密保全体制を対象とする制度であるため、専ら保護すべき情報を取り扱う事業者は認証の対象とはなりません。
両者の違いを一覧で整理
| 項目 | 認証事業者 | 防衛事業適合事業者 |
|---|---|---|
| 位置づけ | 秘密保全体制が秘密保全基準を満たすと防衛装備庁長官に認証された状態(任意の事前確認) | 実際に秘密・保護すべき情報を取り扱うための契約を防衛装備庁と締結した状態 |
| 対象となる情報 | 秘密のみ(保護すべき情報に認証制度はない) | 秘密および保護すべき情報 |
| 申請・申込みの要件 | 現に秘密を取り扱っている(または契約履行後3年以内)、過去5年以内に契約3件以上など | 認証事業者、または保全施設・保全体制・実地監査結果などの要件を満たす事業者(認証は必須ではない) |
| できること | 認証証明書・認証マークの使用、契約申込み時の手続の一部省略 | 実際の秘密・保護すべき情報の取扱い |
| 有効期間 | 5年間(延長可) | 5年間(延長可) |
「秘密」と「保護すべき情報」対象情報の2区分で手続が異なる

~新手続のメリットと手順の紹介~ | 防衛装備庁
防衛事業適合事業者契約で扱う情報は、大きく「秘密」と「保護すべき情報」の2つに区分されており、それぞれ求められる手続が異なります。
秘密は、特別防衛秘密、特定秘密、装備品等秘密を指します。この場合、契約締結前に、総括者の指名、秘密保全組織の整備、外国からの影響・支配の程度の評価、秘密保全規則の制定、教育体制の整備・実施、秘密保全施設・秘密取扱情報システムの構築といった秘密保全体制を整え、契約期間を通じて維持する必要があります。詳細は「防衛事業適合事業者契約条項(秘密)」に定められています。
一方の保護すべき情報を取り扱う場合は、契約締結前に、装備品等及び役務の調達における情報セキュリティ基準を満たす必要があります。具体的には、情報セキュリティ基本方針等の規則制定、システムセキュリティ実装計画書(SSP、情報システムの安全管理策をまとめた計画書)の作成、取扱施設の指定、取扱者名簿の用意などが求められます。
| 区分 | 対象 | 契約前に必要な主な体制 | 認証の対象 |
|---|---|---|---|
| 秘密 | 特別防衛秘密、特定秘密、装備品等秘密 | 秘密保全組織、秘密保全規則、教育体制、秘密保全施設・情報システム | 対象になる |
| 保護すべき情報 | 秘密に該当しない防衛関連の重要情報 | 情報セキュリティ基本方針等、システムセキュリティ実装計画書(SSP) | 対象外 |
契約締結後の運用にも違いがあります。秘密を扱う契約では、毎月の自己点検申告書・自己点検票の提出、1年ごとの保全基準兼点検票一式の提出に加え、3か月ごとに地方防衛局等による保全検査が行われます。一方、保護すべき情報を扱う契約では、自己点検・申告は6か月ごとで、実地監査は防衛装備庁・地方防衛局等が必要と認めた場合のみ実施される仕組みです。(参照:防衛事業適合事業者制度に関するよくある御質問 | 防衛装備庁)
移行スケジュールと実務上の対応
何から何へ移行するのか 契約構造の変化

この制度改正のポイントを一言でいえば、契約や保全手続を簡素化することです。
従来は、秘密や保護すべき情報を取り扱うたびに、個別の調達契約ごとに特約条項やガイドラインを付け、契約ごとに保全手続を行う必要がありました。さらに、秘密については特定秘密・特別防衛秘密・装備品等秘密といった区分ごとにルールが分かれていたため、手続が複雑になりやすい仕組みでした。
新制度では、こうした保全の枠組みを、個別契約ごとではなく、秘密等を取り扱う組織単位でまとめて契約する方式に改めています。まず、防衛装備庁との間で「防衛事業適合事業者契約」を一度締結しておけば、その後の個別の調達契約では、必要最小限の特約条項を付けるだけで対応しやすくなります。
つまり、これまで「契約ごと・秘密区分ごと」に分かれていた保全手続を、「組織単位で一元化」するのが新制度の本質です。これにより、重複する確認や書類提出が減り、実際の契約や事業着手をより進めやすくすることが狙いとされています。
なお、すでに旧制度の特約条項で秘密を取り扱っている事業者は、「契約変更承諾申請書」を提出することで、履行中の契約に付いている保全特約条項を新制度の契約条項へ移行することができます。
移行の時系列と経過措置
移行の時系列は、訓令の附則と防衛装備庁の公表資料を整理すると次のようになります。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 令和7年7月1日 | 訓令施行。ここから2年間の移行期間が開始 |
| 令和7年7月1日〜令和9年6月30日 | この期間内に認証申請・契約申込みを行った事業者は、提出書類の簡素化などの経過措置を受けられる。あわせて、経過措置を利用した事業者に対する継続的確認は、令和8年3月改正後の訓令附則により令和10年3月31日までは経過措置の基準で行うことができる |
| 令和9年7月1日以降 | 令和9年6月までの移行に適用される一部手続免除の期限が終了。以後は原則として通常の審査・手続による移行 |
| 令和9年度末(令和10年3月31日) | 旧制度下の秘密情報等に関する特約の枠組みが廃止。令和10年度以降も秘密情報を取り扱う事業者は、この期限までに防衛事業適合事業者契約の締結が必要 |
(参照:防衛装備庁、防衛事業適合事業者制度 | 防衛装備庁)
移行を先送りするほど、書類省略等の経過措置のメリットを受けにくくなる点には注意が必要です。
なお、現時点で対象となる調達範囲は、当分の間、秘密情報を多く扱う中央調達及び防衛装備庁が行う地方調達のみです。防衛装備庁以外の防衛省機関が実施する地方調達への適用拡大は、今後の運用状況を踏まえて検討されるとされています。
申請から契約締結までの流れと審査期間の目安
申請書類は、管轄の地方防衛局等へ電子メールで提出する形が基本です。認証申請と防衛事業適合事業者契約の申込みは同時に行うことも可能で、共通する提出書類は重複して提出する必要がありません。
審査にかかる標準的な期間の目安は、事業者の状況によって異なります。
- 秘密取扱い未経験の新規事業者:必要書類が揃ってから約3か月
- 既に秘密を取り扱っており、既存の承認済み保全施設を継続利用する事業者:約1か月
- 保護すべき情報のみを扱う契約:書類が揃ってから約1か月
保護すべき情報を扱う契約の場合、申請時には情報セキュリティ基本方針等(基本方針・規則・実施手順)の写し、システムセキュリティ実装計画書(SSP)の写し、これらに関する防衛装備庁等からの確認通知の写し、直近の情報セキュリティ実地監査の結果通知の写し(要改善事項があれば改善措置完了の証明)が必要になります。契約締結後は個別の確認手続の多くが省略される分、締結前にこれらの文書の策定と防衛装備庁側の確認を済ませておく必要がある、という前倒しの構造になっている点がポイントです。
なお、本制度自体は国内ルールに基づく制度であり、参画することがそのまま外国の秘密情報の取扱いを意味するわけではありません。実際に外国の秘密を取り扱うには、防衛事業適合事業者になったうえで、当該国との協定・取決め等に基づく政府間手続が別途必要になります。米国から提供される特別防衛秘密は、原則としてこの制度の下で取り扱うことができるようになる想定が示されています。(参照:防衛事業適合事業者制度に関するよくある御質問 | 防衛装備庁)
実際の活用事例 防衛白書に見る企業の声
制度の狙いである保全手続の効率化が、事業者側からどう受け止められているかを示す一例も見ておきましょう。防衛省が公表した令和8年版の防衛白書 には、本制度を実際に活用する企業の声が掲載されています。紹介されているのは、ソフトウェアの品質保証・テスト事業を手掛ける株式会社SHIFTのナショナルセキュリティ事業部長であり、防衛領域に特化したグループ会社・株式会社Japan Aerospace & Defense Consulting(JADC)の代表取締役社長を務める森日出雄氏のコメントです。
同社は2024年にナショナルセキュリティ事業部を、2025年に防衛領域特化の専門組織としてJADCを設立し、防衛事業へ本格参入しました。森氏は、これまで「保護すべき情報」を扱う事業には参画してきたものの、より機密性の高い「秘密情報」を扱う事業は契約ごとに実施される保全手続が煩雑で、事業着手の障壁になっていたと振り返っています。そのうえで、防衛事業適合事業者制度について「(本制度は)防衛分野における機動的な技術提供を可能とする『情報保全のパスポート』」と評価しています。(出典:令和8年版防衛白書 p.496 | 防衛省)
また、JADCは2026年7月3日から、防衛関連企業の防衛事業適合事業者制度に関する契約・認証取得を支援する「防衛事業適合事業者制度 契約・認証支援サービス」の提供を開始しています。(参照:SHIFTグループのJADC、防衛事業適合事業者制度 契約・認証支援サービスの提供を開始 | PR TIMES)
まとめ
防衛事業適合事業者制度は、諸外国の事業者クリアランスの考え方を取り入れ、調達契約ごと・秘密区分ごとにバラバラだった保全特約を、秘密を取り扱う組織単位の一つの包括的な契約へと再編する仕組みです。「認証」はあくまで秘密保全体制が基準を満たしていることを防衛装備庁に事前に確認してもらう任意の手続であり、実際に秘密や保護すべき情報を取り扱うには、認証の有無にかかわらず「防衛事業適合事業者契約」の締結が必要になる、という両者の関係を正しく理解しておくことが、制度活用の第一歩になります。
既に秘密を取り扱う契約を持つ事業者にとっては、令和9年6月末までの申請が書類簡素化等の経過措置を受けられる目安であり、令和9年度末には旧制度の特約の枠組みが廃止されます。諸契約の簡素化を目指した新制度ですが、そのための手続きは複雑です。防衛装備庁との取引を検討している事業者、あるいは既にサプライチェーンの一端を担っている事業者は、自社が「秘密」と「保護すべき情報」のどちらに関わる可能性があるのかを整理したうえで、防衛装備庁が設置している「防衛産業保全制度よろず相談窓口」や「よくある質問」を確認しながら準備を進めることをおすすめします。