2026年8月、国土交通省は令和9年度(2027年度)予算の概算要求で、防災・減災対策に重点を置いた過去最大規模の要求額を財務省に提出したと報じられました。同じ時期には、防災の司令塔となる新組織「防災庁」の設置根拠法も2026年7月に公布されており、「防災予算」という言葉をニュースで目にする機会が増えています。
しかし防衛費のように「防衛関係費」という一本化された予算科目が存在するのとは異なり、防災に関する予算は複数の省庁に分かれて計上されています。防災予算がどこから出ているのか、どの省庁がいくら要求しているのかを整理しないまま金額の大小だけを追うと、全体像を見誤りかねません。
本記事では、内閣官房・国土交通省の公表資料と報道をもとに、防災予算の内訳と管轄省庁、そして防災庁の設置が予算の仕組みにどう関わるのかを整理します。
- 防災予算は防衛費のような一本化科目ではなく、内閣官房や国土交通省など複数府省庁に分散
- 令和9年度概算要求で国交省8兆7,694億円(過去最大)、内閣官房(防災庁関連)652億円(前年度比約3倍)
- 防災庁の設置(2026年7月17日公布)は司令塔の一元化であり、予算の一元化ではない
防災予算は「一本化された科目」ではない
防衛費であれば、財務省・防衛省の資料に「防衛関係費」という一つの括りがあり、その中に整備計画対象経費や米軍再編関係経費などの内訳が示されます。一方、防災に関する予算にはこうした単一の括りがありません。防災は、平時の備え・発災時の対応・復旧復興・インフラ整備といった性質の異なる業務の集合であり、それぞれを所管する省庁ごとに予算が計上される仕組みになっています。
具体的には、防災の司令塔機能や制度の企画立案を担うのが内閣官房・内閣府(防災担当)、堤防や砂防、道路啓開など防災インフラの整備を担うのが国土交通省、消火・救助を担うのが消防庁、気象情報の提供を担うのが気象庁といった具合に、複数の省庁がそれぞれの所管分野で予算を要求し、執行しています。「防災予算」というひとことでまとめて語られがちですが、実際には性質の異なる予算の集合体だと捉えるほうが実態に近いといえるでしょう。
令和9年度概算要求 何が・どれだけ増えたか
2026年8月末までに各省庁が財務省へ提出する令和9年度(2027年度)予算の概算要求では、防災関連の要求額が相次いで明らかになっています。ここでは、内閣官房(防災庁関連)と国土交通省という、性質の異なる2つの要求を確認します。
内閣官房 防災庁関連予算は652億円、前年度比約3倍
内閣官房は、防災庁関連の令和9年度予算概算要求として652億円を求める方針を固めたと報じられています。これは令和8年度(2026年度)の関連予算額218億円と比べて、約3倍の規模です。(参照:防災庁予算、652億円要求へ 前年度比3倍、研究開発推進―内閣官房|時事通信)
増額の中心は、防災技術の研究開発に充てる225億5,000万円です。「防災技術・産業成長投資総合推進費」という新規事業が創設され、関係省庁が民間から防災技術・製品を公募し、自治体での実装まで一貫して支援する仕組みが想定されているとのことです。あわせて、災害時の誤情報対策など戦略的な情報発信に1億4,800万円が計上される方針も伝えられています。(参照:同上)
- 防災技術研究開発(新規「防災技術・産業成長投資総合推進費」):225億5,000万円
- 戦略的情報発信(誤情報対策等):1億4,800万円
- 避難所環境整備に関する自治体向け事例集の作成
- 民間支援団体情報を整理する被災者支援データベースの整備
国土交通省の概算要求は8兆7,694億円、過去最大
国土交通省は令和9年度予算の概算要求として、過去最大となる8兆7,694億円を財務省に提出したと報じられています。前年度比では44.4%の増額です。このうち、南海トラフ地震や首都直下地震といった大規模地震への対策には3,416億円が計上されており、帰宅困難者の受け入れ施設整備支援やマンホールトイレの設置などが盛り込まれているとのことです。(参照:過去最大8兆7694億円 防災・減災対策に重点―国交省概算要求|時事通信)
同記事では、北海道新幹線の追加経費やLNG運搬船の建造支援など、金額を明示しない「事項要求」の項目も含まれている点に触れられています。国交省の予算は道路・鉄道・港湾など幅広い所管業務全体を含むため、8兆7,694億円のすべてが防災・減災対策というわけではありませんが、防災・減災関連の個別事業だけでも内閣官房の要求額とは桁が異なる規模であることが分かります。
| 区分 | 令和9年度予算概算要求額 | 前年度比 | 主な所管 |
|---|---|---|---|
| 内閣官房(防災庁関連予算) | 652億円 | 令和8年度実績218億円から約3倍 | 内閣官房(防災庁設置準備室) |
| 国土交通省(うち大規模地震対策) | 8兆7,694億円(うち3,416億円) | +44.4%(過去最大) | 国土交通省 |
防災庁の設置は「予算の一元化」ではない
2026年7月17日、防災庁の設置根拠法である防災庁設置法(令和8年法律第61号)と関連整備法(令和8年法律第62号)が公布されました。内閣官房は、南海トラフ地震や首都直下地震など「国難級」の災害の発生が切迫する中、人命・人権を最優先とする「防災立国」の実現に向け、平時から復旧・復興までの一貫した司令塔機能を担う組織として防災庁の設置準備を進めているとしています。(参照:防災庁の設置について|内閣官房)
ここで注意したいのは、防災庁が担うのはあくまで防災に関する基本方針の企画立案や、大規模災害時の各省庁間の総合調整といった司令塔機能が中心だという点です。堤防・砂防・道路啓開といった個別インフラの整備・維持管理を担ってきた国土交通省や、消火・救助を担う消防庁、気象情報を担う気象庁の役割が、防災庁の設置によってそのまま防災庁へ吸収されるわけではありません。つまり防災庁の設置は、防災行政の「司令塔」を一元化する取り組みであって、各省庁に分かれている「予算」までも一元化するものではない、と理解しておくとよいでしょう。
先に確認した通り、令和9年度概算要求の段階でも、内閣官房(防災庁関連)652億円と国土交通省8兆7,694億円という、桁の異なる2つの予算が並んで要求されています。この構図は、防災庁が発足した後も基本的には変わらないとみられ、防災予算全体を把握するには、防災庁関連予算だけでなく、インフラ整備を担う国交省をはじめとした関係省庁の予算もあわせて確認する必要があります。
概算要求と成立予算は別ステージ
ここまで確認してきた652億円や8兆7,694億円といった数字は、いずれも令和9年度予算の概算要求段階のものです。概算要求は、各省庁が翌年度に向けて「これだけの予算がほしい」と財務省に要求する見積もりであり、その後の予算編成過程・国会審議を経て、年末から年始にかけて成立する「予算」とは別のステージの数字です。
防衛費のニュースを読み解く際と同様に、防災予算についても「その金額が概算要求段階なのか、すでに成立した予算なのか」を区別する視点が欠かせません。8月末に出そろった要求額は、今後の予算編成過程で査定・調整され、増減する可能性があります。報道で目にした金額をそのまま最終的な防災予算として受け止めず、年末以降に成立する予算をあらためて確認することをおすすめします。
まとめ 防災予算は「誰が・何のために」計上しているかを見る
防災予算は、防衛費のように一つの科目にまとまった予算ではなく、司令塔機能を担う内閣官房(防災庁関連)と、インフラ整備を担う国土交通省をはじめ、複数の省庁にまたがって計上されています。令和9年度概算要求では、内閣官房が652億円(前年度比約3倍)、国土交通省が8兆7,694億円(過去最大)を要求しており、両者の規模の差からも、防災予算が単一の財布から出ているわけではないことが分かります。
2026年7月に公布された防災庁設置法によって司令塔機能の一元化は進みますが、個別インフラの整備・維持管理といった業務は引き続き国土交通省をはじめとする各省庁が担うとみられ、予算の一元化までは意味しません。ニュースで防災予算・防災庁関連の金額を目にしたときは、その数字がどの省庁の、どの段階(概算要求か成立予算か)の数字かを確認する習慣をつけておくと、報道の解像度が大きく変わってくるはずです。
防災庁の設置経緯や今後のスケジュールについては、こちらの記事で詳しく解説しています。予算に関する数字の読み解き方は、防衛費についてもほぼ同じ視点が使えます。あわせてご覧ください。