川崎重工、防衛事業の収益1兆円超へ|進捗報告会の要点

川崎重工、防衛事業の収益1兆円超へ|進捗報告会の要点

川崎重工業は、2026年10月6日に開催された「グループビジョン2030進捗報告会」で、防衛事業の売上収益について、2030年代中頃に1兆円超の達成を目指す方針を示しました。国内の防衛産業の中核を担う企業が成長の道筋を具体的に語ったことは、防衛費の増額が進められる中で注目を集めています。

では、川崎重工は何をつくっている会社なのか、そして1兆円という数字は何を意味するのでしょうか。本記事では、川崎重工の基本情報と防衛事業を押さえたうえで、報告会で明らかになった全社方針、防衛事業の見通し、「新しい戦い方」への取組みを紹介します。

この記事のポイント
  • 川崎重工は防衛事業の2030年度売上収益見通しを約7,000〜8,000億円へ上方修正
  • 「新しい戦い方」への取組みで、2030年代中頃に1兆円超を目指す(同社の目標)
  • 防衛事業の事業利益率は2027年度以降10%超を見通す

発表の概要

引用:グループビジョン2030進捗報告会資料 | 川崎重工業

報告会では、代表取締役社長執行役員の橋本康彦氏が登壇し、①全社の重点投資方針、②防衛事業、③エネルギー事業、④フィジカルAIの4章で構成されました。本記事は、このうち全社方針と防衛事業を中心に取り上げます。

防衛事業について、同社が資料で示した要点は次のとおりです。

  • 政府の防衛費増額を追い風に、防衛事業は2030年度の売上収益見通しを約7,000〜8,000億円へ上方修正(前回見通しは5,000〜7,000億円)
  • 「新しい戦い方」への取組みにより、2030年代中頃に売上収益1兆円超の達成を目指す
  • 契約制度改正等により、事業利益率は2027年度以降10%超を実現する見通し

ここで注意したいのは、これらが確定した実績ではなく、向こう10年を見据えた同社の見通し・目標である点です。(参照:グループビジョン2030進捗報告会資料 | 川崎重工業)

川崎重工とはどんな会社か

会社概要

川崎重工業は、1896年10月15日に設立された総合重工業メーカーです。東京本社(東京都港区海岸)と神戸本社(神戸市中央区東川崎町)の2本社体制で、代表者は橋本康彦氏です。2026年3月期の連結売上収益は2兆3,113億円、2026年3月31日時点の連結従業員数は41,652人となっています。(参照:会社概要 | 川崎重工業)

5つの事業セグメント

報告会資料では、事業セグメントとして次の5つが示されています。防衛関連の製品が中心となるのは、このうち航空宇宙システム(および艦艇・潜水艦を含む社内事業であるエネルギーソリューション&マリンカンパニー)です。

セグメント 防衛との関わり(資料・公式ページで確認できる範囲)
航空宇宙システム P-1固定翼哨戒機、C-2輸送機、誘導弾など防衛省向け製品を担当
エネルギーソリューション&マリン 海上自衛隊向け潜水艦などを製造。資料には防衛事業の範囲が航空宇宙システムとともにまたがると図示されていたが詳細説明はなし
車両 報告会資料では防衛との関連は示されず
精密機械・ロボット 2030年にかけて売上比率が高まる見込みのセグメントの一つと紹介
パワースポーツ&エンジン 報告会資料では防衛との関連は示されず

今後4年間で5,500億円の成長投資を見込む

防衛事業の成長を支える全社の方針として、同社は2026年7月に約2,000億円の資本性調達(会計上は"自己資本"とみなされる借入金)を実施しました。内訳は公募増資と転換社債型新株予約権付社債(CB)が各約1,000億円です。今回の発表では、2027年から2030年までの4年間で、これらの資金の中から成長投資として5,500億円を、防衛、航空宇宙・エンジン、ガスタービン、造船、半導体用ロボット等の分野に投資することが明かされました。

防衛分野の主な製品

航空宇宙システムカンパニーは、防衛省、陸上自衛隊・航空自衛隊へ向けて機体の開発・製造を手がけています。防衛関連の主な製品は、P-1固定翼哨戒機とC-2輸送機、そして中距離多目的誘導弾などです。(参照:航空宇宙システムカンパニー | 川崎重工業・量産装備品 | 川崎重工業)

製品 想定する対処対象・用途(同社の説明)
中距離多目的誘導弾 中距離域の多様な事態に対処する陸上自衛隊向け誘導弾
01式軽対戦車誘導弾 近距離域で戦車等に対処する陸上自衛隊向け誘導弾
96式多目的誘導弾システム 遠距離域の上陸用舟艇、戦車等に対処する陸上自衛隊向け誘導弾
対空射撃用標的 各種対空火器の射撃訓練用の地上発進標的
空対空用小型標的 各種空対空ミサイルの射撃訓練用の空中発進標的(航空自衛隊向け)

報告会資料では、これらに加えて同社の現在の技術・知見としてSOJ(スタンド・オフ電子戦機)、P-1(哨戒機)、新SSM、潜水艦、T-4、KJ14・KJ100(小型ターボジェットエンジン)、が挙げられています。

防衛事業の進捗と今後の見通し

引用:グループビジョン2030進捗報告会資料 | 川崎重工業

既存事業の主な成果

同社は、すでに形になった成果として次の3点を挙げています。

  • SOJ(スタンド・オフ電子戦機):2026年6月に初号機を納入
  • 新SSM(島嶼防衛用新対艦誘導弾):2025年に発射試験に成功
  • スタンド・オフ防衛能力:2025年度に研究試作を受注

※スタンド・オフ...相手の脅威圏の外から対処できる能力

売上推移の根拠となる防衛予算

川崎重工の防衛事業の売上収益は2022年が約2,400億円、2025年が約4,300億円です。2026年は約5,100億円を見込んでおり、そこから2030年に約7,000〜8,000億円、2030年代中頃に1兆円超を目指すというビジョンを明らかにしました。2022年の約2,400億円から2026年見通しの約5,100億円まで、4年間で規模は2倍強になる計算です。

同社がこうした見通しの補強と材料しているのが、政府の防衛予算の引き上げがあります。報告会で示された資料では、防衛省予算の推移見込みとともに、重視分野として「無人アセット防衛能力」「スタンド・オフ防衛能力」「統合防空ミサイル防衛」など7分野が挙げられたこと、新たな方針は「新しい戦い方」への対応、持続的な対応能力、防衛力の基盤という3本柱・9項目で構成されていることが示されました。こうした政府の方向性と、歩調を合わせる形で発表されたのが、次に紹介する「新しい戦い方」への4つの取組みです。

「新しい戦い方」への4つの取組み

引用:グループビジョン2030進捗報告会資料 | 川崎重工業

2030年代中頃の1兆円超という目標の鍵になるのが、AI・無人機を前提とした「新しい戦い方」への対応です。具体的には、次の4つのシステム・装備を挙げられました。

有人機と無人機の連携

有人機の任務を補完・代替する、無人機の開発です。脅威圏での電子戦や対艦戦をサポートする「多用途連携無人機」、高脅威圏での妨害・欺瞞・攻撃を担う「消耗型無人機」、継続的・広範囲な対潜戦をサポートする「中・大型無人機」という役割の異なる3種類が示されました。

自律協調システム

遠隔・高脅威圏で、与えられた指示をもとにエッジAIが協調し、ミッションの達成を目指す構想です。エッジAIとは、クラウドや遠隔のサーバーに頼らず、機器自身の演算装置で処理するAI技術を指します。構成要素として、次世代SSM、身代わりとなるデコイ弾、電子妨害を行うジャマー弾、無人潜水艇(UUV)の4つが紹介されています。

統合教育訓練システム

AIを活用した教育訓練の仕組みで、シミュレータ訓練を担う先進地上訓練装置、実飛行訓練を担う次世代練習機、そして訓練データを統合管理する基盤の3つの要素から成り立っています。ここにAI教官や仮想の有人機・無人機を使う構想も盛り込まれています。

KJエンジン

無人アセット向けの小型ターボファンエンジン「KJ」シリーズです。同社は国内で唯一、大電力を供給できる小型ターボファンエンジンだと説明し、KJ14・KJ10・KJ100・KJ300・KJ310のラインアップ拡充を進める方針です。複数のエンジンは防衛省との契約により開発中とされ、海外市場への販路拡大も方向性として示されました。

防衛分野でのAI活用は、同じ大手重工の三菱重工業でも、他社との提携という形で進んでいます。

大手の動きに注目すべき理由

大手の動きは、サプライヤーやスタートアップにとっても無関係ではありません。川崎重工は重点取組みとして、スタートアップ企業との協業(エッジAI演算装置の研究)や海外企業との連携を挙げました。エッジAI、認証・セキュリティ体制、量産・製造といった投資領域は、ドローンやAI、サイバーセキュリティ関連の事業者が自社の強みと照らし合わせやすい分野です。

防衛省も、スタートアップ企業の技術を取り込む仕組みづくりを進めています。

まとめ

2026年10月6日の進捗報告会で、川崎重工は防衛事業の2030年度売上収益見通しを約7,000〜8,000億円へ上方修正し、2030年代中頃に1兆円超を目指す方針を示しました。事業利益率も2027年度以降10%超を見通しており、規模と収益性の両面での成長を掲げています。

その中心となるのが、有人機と無人機の連携、自律協調システム、統合教育訓練システム、KJエンジンという「新しい戦い方」への4つの取組みです。これらはまだ構想段階であり、今後の動きは未知数です。決算説明や防衛予算の動向とあわせて、進捗を見ていく必要があります。

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AISブログ編集部

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