原子力潜水艦とは?日本の導入検討報道と非核三原則、海外事例など主要な論点を解説

原子力潜水艦とは?日本の導入検討報道と非核三原則、海外事例など主要な論点を解説

読売新聞は2026年10月7日、年内に予定される安保3文書の改定で、自衛隊への原子力潜水艦(原潜)の導入について検討に入る方針を盛り込む案が浮上していると報じました。(参照:自衛隊への原子力潜水艦の導入検討案が浮上、安保3文書の年内改定で | 読売新聞オンライン)報道では「複数の政府・与党関係者が明らかにした」とする一方、同日の衆議院の代表質問で高市首相は「現時点で決まっていることはない」と答えています。

原潜は防衛装備のなかでも、動力・人材・予算・原子力政策・核不拡散まで一度に論点が広がるテーマです。では、何が議論になっているのでしょうか。

本記事では2026年10月7日時点の情報をもとに、原子力潜水艦の基本、小泉防衛相の発言、日本維新の会や有識者会議の議論、原発・核兵器との関係、豪州や韓国の事例を見ていきます。

この記事のポイント
  • 読売新聞の報道は、安保3文書改定で原潜の「保有検討」を盛り込む案が浮上というもの(政府の正式決定ではない)
  • 小泉防衛相は9月11日の会見で「決め打ちはしていません」としつつ、選択肢として排除せず検討と発言
  • 焦点は、抑止力への期待と、人員確保・コスト・原子力規制・核不拡散・非核三原則との関係

原子力潜水艦とは何か

「原子力潜水艦」とは、原子力を動力源とする潜水艦のことです。艦内に原子炉を搭載しており、原子炉でつくった高温高圧の水蒸気でタービンを回して電力を得る仕組みで、航続距離の制約がなく、長期間の潜航が可能です。一方で、原子炉は常に冷却し続ける必要があるため、冷却システムが常時稼働し、航行中の騒音が大きいという欠点もあります。また、「原子力」の対立概念として、ディーゼルエンジンと蓄電池、電動機などを組み合わせた従来型の潜水艦は「通常動力(型)潜水艦」と言われます。

日本維新の会の提言書には、この辺りの詳しい説明があります。それによると、通常動力潜水艦は大量の酸素を必要とするディーゼルエンジンを水中で動かせないため、潜航中は蓄電池で航行します。蓄電池の容量が減ると、船体の一部を水面上に出して「シュノーケル航走」を行い、ディーゼルを回して充電する必要があり、敵に発見される危険が高まります。原子力潜水艦は、まさにこの「蓄電池の残量を気にせず長期間潜航したい」という課題を解決しようとするものだ、というのが提言の説明です。(参照:「危機の30年」時代の国家安全保障戦略 | 日本維新の会)

提言が挙げる通常動力型との比較は、次のとおりです。いずれも維新の提言に記された数値と主張であり、政府の公式見解ではありません。

項目 通常動力型 原子力潜水艦(提言の説明)
速力 水中で20ノット程度(時速35km程度)。使用は数時間に限られる 25〜30ノット(時速50km以上)を長時間維持可能
潜航 蓄電池の充電のためシュノーケル航走が必要 シュノーケル航行が不要。乗組員の食料が続く限り(数ヶ月程度)潜航可能
乗員数 60名程度 100名前後
調達費用(1隻) 約1,140億円 米ヴァージニア級で約6,422億円(防衛省調べ、1ドル150円換算)

出典:参照:「危機の30年」時代の国家安全保障戦略 | 日本維新の会

原子力潜水艦は、原子力技術を持つ国しか製造できず、米国、ロシア、中国、イギリス、フランス、インドの6カ国が保有しているとされています。イギリス以外の国は核兵器の保有国です。(イギリスは原子力発電所を保有)このほか、令和8年版の防衛白書では、北朝鮮が建造を進めていること、豪州・韓国が導入を進めていることが紹介されています。(参照:令和8年版防衛白書 | 防衛省・自衛隊)

小泉防衛相の発言(2026年9月11日)

小泉防衛相は9月11日の記者会見で、米海軍関係者が日本の原潜保有に肯定的な見方を示したとする報道への受け止めを問われました。大臣は個別の報道へのコメントを控えたうえで、3文書の改定のなかで「あらゆる選択肢を排除せずに検討する」と述べてきたとおりで、原子力潜水艦も選択肢として排除せず検討を進めると答えています。

続けて、日本が持つことの戦略上の利点と課題を問われた大臣は、「決め打ちはしていません」としたうえで、あくまで一般論として次のように説明しました。

  • 原子力潜水艦は長時間の潜航や長期間の行動が可能で、通常動力艦と比べて数倍の速力を持つとされる
  • 一方で、通常動力型に比べて水中での静粛性が劣るとされる
  • 原子力機関が高価格で、船体も大型化する必要がある
  • 原子力機関の維持・整備や運用に特殊な専門技術が必要

そのうえで大臣は、あらゆる選択肢を排除せず抑止力・対処力の向上に必要な方策を検討するが、特定の結論ありきで進めることはないと述べています。(参照:防衛大臣記者会見(令和8年9月11日) | 防衛省)

安保3文書そのものの位置づけは、次の記事で解説しています。

周辺の議論:政府与党の意見と有識者会議の意見

自民・日本維新の会の連立合意

昨年2025年10月20日、自民党と日本維新の会は連立政権合意書を結びました。合意書の中には、このような記載があります。

わが国の抑止力の大幅な強化を行うため、スタンド・オフ防衛能力の整備を加速化する観点から、<中略>長射程のミサイルを搭載し長距離・長期間の移動や潜航を可能とする次世代の動力を活用したVLS搭載潜水艦の保有に係る政策を推進する。

引用:自由民主党・日本維新の会 連立政権合意書 | 自由民主党

VLSとは、ミサイル発射システムです。ここでの「次世代の動力」は原子力を指しているのではないかとの指摘について、高市首相は「現時点において、政府として決定していることはなく、既存の法令との関係を含め、特定の動力を念頭に具体的な検討を行っているものではない」と回答しています。(参照:衆議院議員宮川伸君提出「次世代の動力」の自衛隊潜水艦への活用に関する質問に対する答弁書 - 令和7年11月14日 | 衆議院)

この国会質問は昨年のものですが、政府の意見としては「あらゆる可能性を排除せず検討を行うが、政府として決定していることはない」という点については一貫していることがわかります。

日本維新の会:早急な導入を要求

日本維新の会は2026年6月17日の提言で、「政府は、早急に原子力潜水艦を導入すべきである」と求めています。VLS搭載潜水艦の機動力と残存能力を確保し、大電力を供給する次世代の動力は原子力以外にないというのが主な論拠です。提言は、5つの環境変化(VLS搭載潜水艦の保有、中国海軍の太平洋進出、北朝鮮の原潜建造、豪州・韓国の導入)を導入の根拠に挙げています。必要に応じて原子力基本法を改正するとも述べており、動力のポートフォリオ(通常動力と原潜の組み合わせ等)をゼロベースで検討すべきだとも記しています。(参照:「危機の30年」時代の国家安全保障戦略 | 日本維新の会)

このように、日本維新の会は政権与党でありながら、政府見解からは一歩踏み込んだ提言がなされていることがわかります。

有識者会議:賛否が分かれる意見

政府の「総合的な国力から安全保障を考える有識者会議」の第2回(2026年6月8日)議事要旨では、原潜をめぐって複数の意見が記録されています。議事要旨に発言者名は付されていません。

ある委員は、原潜の導入は通常動力型の潜水艦では原理的に届かない「拒否の縦深」を与えると述べ、西太平洋の防衛体制を強化すべきだとしました。

別の委員は、VLS搭載潜水艦の必要性は理解し、動力の選択肢に原子力が入ることも否定しないとしつつ、人口減少のなかで人員を長期的・安定的に確保できるかは不透明だと指摘しています。現時点で原子力を強調するのはいかがか、との意見で、別の委員がこれに賛成したとも記録されています。さらに別の委員は、通常動力のVLS搭載潜水艦が難しいなら原子力潜水艦にVLSを持たせることを優先するのか、反撃能力とそれ以外の関係で何を優先すべきかを明確にすべきだと述べました。(参照:総合的な国力から安全保障を考える有識者会議(第2回)議事要旨 | 内閣官房)

このように、有識者会議の委員が全員一致で原潜保有を進めているわけではないことには注意が必要です。メンバーの一人である筑波大学の東野篤子教授は自身のSNSで、原子力潜水艦をの短期的な導入を推進している委員は参加者の中で一人だけという趣旨の投稿をしています。

原発(原子力発電)との関連

原潜と原発は、どちらも核分裂の熱を利用する点は共通しますが、目的も設計も異なります。日本維新の会の提言は、「原子力発電と原子力推進は全く異なる」とし、後者は発電所ではなく燃料交換不要のエンジンという位置づけだと述べています。潜水艦用原子炉は小型・軽量・高出力である必要があり、商業炉と軍用炉は根本的に異なる設計思想だとも説明しています。

また、日本には原子力船「むつ」を建造・運用した実績があり、貴重なデータも残されているとしたうえで、既存の原子力規制委員会・規制庁ではなく、原潜に係る独立した規制体制を整備すべきだと主張しています。豪州はAUKUSでの導入にあたり、国防省内に独立した規制機関を設ける法律を制定したと紹介しています。

なお、提言は「必要に応じて原子力基本法を改正する」としており、法制度の見直しが論点になりうることが示されています。

核兵器との関連

原子力で動くことと、核兵器を搭載することは別の話です。

ただ、日本は唯一の被爆国であり、福島第一原発を始めとした原発事故を経験していること、非核三原則の存在などから、"原子力"と名のつく軍事目的の潜水艦の保有について、賛否の分かれる議論が行われることは必至です。前述の衆議院質問でも、「原子力の平和利用」に触れた質問で高市首相は「二〇一七年の稲田朋美防衛大臣の答弁「原子力が殺傷力ないし破壊力としてではなく、自衛艦の推進力として使用されることも、船舶の推進力としての原子力利用が一般化していない現状においては、同じく認められない」」について政府見解に変更はないとしています。

核兵器との関連では、主に次の3つが論点になります。いずれも、原子力で動くことと核兵器を載せることは別という前提のうえで、周辺の制度や国際ルールとどう整合させるかという問題です。

論点1:非核三原則の「持ち込ませず」

非核三原則は、核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」とする日本政府の基本方針です。「持たず」「作らず」は核不拡散条約(NPT)の批准で法的な裏付けもありますが、「持ち込ませず」は日米安保条約第6条の事前協議が制度上の支えで、その運用には課題も指摘されてきました。維新は、2032年以降に米の海洋発射型核巡航ミサイル(SLCM-N)が配備されると、日本に寄港する米攻撃型原潜の核搭載の有無の確認は現実的でなくなるとして、「持ち込ませず」の現実的検討を求めている。「持たず」「作らず」は維持するとしています。

論点2:核燃料の濃縮度(高濃縮か低濃縮か)

原子炉の燃料に使うウランは、核分裂しやすいウラン235の割合(濃縮度)で分けられ、20%以上が高濃縮ウラン、20%未満が低濃縮ウランです。米国の原潜は濃縮度93%の高濃縮ウランを使い、原子炉の寿命が艦の寿命と同じなので、30年以上燃料を交換する必要がありません。一方、フランスは低濃縮ウランを使い、7〜10年ごとに燃料を交換しています。高濃縮ウランは核兵器にも使える濃度のため、核不拡散の面では低濃縮のほうが懸念は小さくなりますが、そのぶん燃料交換の手間と費用がかかります。

論点3:核燃料の濃縮度(高濃縮か低濃縮か)

NPTの非核兵器国は、持っている核物質が核兵器に転用されていないことを、IAEA(国際原子力機関)の保障措置(査察など)で確認してもらう義務があります。ただし、IAEAとの包括的保障措置協定の第14条には、核兵器などを伴わない軍事目的(原潜の推進など)に核物質を使う場合に、その核物質を保障措置の対象から外す手続きが定められています。AUKUS(豪・英・米の安全保障協力の枠組み)でオーストラリアは、この第14条に基づく「取決め」をIAEAと結び、転用がないことを継続して検証する措置を設ける予定です。取決めの締結までは、英米から原潜用の核物質を受け取れません。維新の提言も、高濃縮ウランを使う場合は、兵器に転用しないことを証明するために、IAEAと連携した査察体制の構築が必要だとしています。

非核三原則については、有識者会議の第2回議事要旨でも、ある委員は「持ち込ませず」を見直すべきとし、別の委員は米国が必要とする場合に見直す余地があるとしました。他方、非核三原則は有識者会議では扱うべきでないとの意見もあり、立場は割れています。これらは原潜の導入そのものへの意見ではなく、核抑止の文脈での発言です。

非核兵器保有国の事例:オーストラリアと韓国

非核兵器保有国でありながら、原潜の導入を進めている国にオーストラリアと韓国があります。

オーストラリア:AUKUSの枠組みでの導入を目指す

オーストラリアは、AUKUSのもとで3段階の計画を進めるとされています。第1段階は、2027年から米英の攻撃原潜を西岸のスターリング基地にローテーション配備し、豪海軍の訓練を行うことです。第2段階は、2030年代初頭に米国のバージニア級を最大5隻取得すること、第3段階は、英国の次期攻撃原潜をベースにした共通の原潜(SSN-AUKUS)を3か国で共同開発し、豪英で建造することです。2025年7月には米トランプ政権がAUKUSの見直しを発表しましたが、同年10月の豪米首脳会談で「全力で推進する」方針が示され、12月の外務・防衛閣僚協議(AUSMIN)などでも再確認されました。

韓国:国内開発を目指す

韓国は、2025年10月の米韓首脳会談で米国が韓国の攻撃型原潜の建造を許可(approval)し、2026年5月26日に「原子力潜水艦開発基本計画(通称:チャン・ボゴN計画)」を発表しました。低濃縮ウランを燃料とし、国内開発・建造を目指す計画で、2030年代中頃を目途に1隻目の進水、2030年代後半以降に実践配備を目指しています。オーストラリアがアメリカから原潜を取得する方針を示したのに対し、韓国は自国開発を目指す点が大きな違いです。

参考までに、北朝鮮については、戦略国際問題研究所(CSIS)が2025年3月の分析で、金正恩氏が2025年3月8日に「核動力戦略巡航ミサイル潜水艦」と称する大型艦を視察したと報じられたこと、2021年1月に5か年の兵器開発計画で核動力潜水艦の建造目標を発表していたことを伝えています。(参照:North Korea Announces Nuclear-Powered Submarine Development | CSIS)

今後の焦点と読み方

ここまでの内容を踏まえると、論点は大きく4つに分かれます。

論点 推進側の主な主張・必要とする条件 慎重側・課題として挙がる点
抑止力・運用 長期潜航・高速で西太平洋まで展開できる 静粛性が劣るとされる
人員 豪州のように育成を進める 人口減少下で長期的な確保が不透明
コスト・産業 国有施設民間操業など産業基盤の活用 建造費は数倍。維持・整備にも専門技術
制度・核 独立規制体制、IAEAとの連携 非核三原則との関係、核不拡散の担保
✎ AIS Insight

本記事の見方では、現時点の焦点は「導入するか否か」より前の、「そもそも建造が可能なのか」「他に優先すべき項目はないか」「国内外の議論とどう向き合っていくのか」という点にあると考えます。技術面では原子炉の小型化と燃料の調達方式、産業面では建造・整備基盤と原子力規制の枠組み、人材面では原子力工学に通じた人員の育成、法律、安全保障全体の戦略...といったように、課題は防衛の枠を超えて広がっています。

原子力潜水艦は、その語感も相まって話題を呼びやすいトピックの一つですが、押さえておきたいのは「報道段階の案」と「政府決定」の違いです。安保3文書の最終的な書きぶりは、有識者会議の提言や与党の議論を踏まえて決まるとされており、今後の発表によって内容が変わる可能性があります。原潜は長期潜航に強みがある一方、人員・費用・規制・核不拡散・非核三原則という様々な課題があります。この点を押さえておくと、報道の精度や真偽についても判断がしやすくなるかもしれません。

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AISブログ編集部

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