安全保障技術研究推進制度(防衛省ファンディング)とは?令和8年度採択47件の傾向と注目点

安全保障技術研究推進制度(防衛省ファンディング)とは?令和8年度採択47件の傾向と注目点

2026年10月20日、小泉防衛大臣は閣議後会見で、令和8年度の安全保障技術研究推進制度(いわゆる防衛省ファンディング)の採択結果を発表しました。応募は制度創設以降最多だった前年度の340件を大きく上回る560件で、そのうち47件が採択されています。今回の公募からは、外傷医療やPTSD対策などへの寄与が期待される医療・医工学も、新しい研究テーマに加わりました。(参照:防衛大臣記者会見 令和8年10月20日 | 防衛省)

防衛省ファンディングは、ニュースで制度名を目にしても、何を支援する制度なのか、大規模・小規模とはどういう区分なのかは、なじみの薄い部分です。本記事では、制度の仕組みと応募の枠組み(系統とタイプ)、令和8年度の結果と注目点を紹介します。

この記事のポイント
  • 防衛省が先進的な基礎研究を公募する制度。委託・補助の2系統、大規模(タイプS)と小規模(タイプA・C)
  • 令和8年度は応募560件・採択47件(委託33件、補助14件)。応募は過去最多
  • 新テーマ「医療・医工学」と研究セキュリティの取り組みが今年度の変更点

安全保障技術研究推進制度とは

安全保障技術研究推進制度(通称:防衛省ファンディング)は、防衛分野での将来の研究開発に資することを期待し、先進的な基礎研究を公募する制度です。防衛省が平成27年度(2015年度)に創設し、大学や研究機関、企業などに研究を委託、または補助金を交付する形で支援してきました。運営は防衛装備庁が担っています。

防衛省の研究費と聞くと、研究内容は指示されるのか、成果を自由に公表できるのか、といった疑問が浮かびます。

結論から言うと、防衛省はあらかじめ研究テーマを示しますが、どのような内容で応募するかは応募者の自由です。審査は外部有識者が行い、研究成果は論文などで公表可能です。採択されたからといって、将来の防衛省・防衛装備庁の研究開発事業への参加を強制されることもないとされています。

対象は、「革新性のあるアイディアに基づく基礎研究」です。防衛省ファンディングは技術成熟度が低く、実用化には遠い領域を担うための制度と位置づけられており、いわゆるハイリスクな研究も推奨される一方、既存技術の実用化に向けた工夫といった応用研究や開発は対象外です。

予算額は創設時の2015年度が3億円で、2017年度に110億円へ拡大し、その後は100億円前後で推移しました。2025年度は114億円、2026年度は129億円です。(参照:安全保障技術研究推進制度(公募要領・説明資料等) | 防衛装備庁)

募集区分:大規模・小規模とタイプの考え方

募集の区分は、研究を委託する契約で進める「委託事業」と、補助金で支援する「補助事業」の2つです。委託事業は、研究規模によって大規模研究課題(タイプS)と小規模研究課題(タイプA、タイプC)に分かれます。補助事業はタイプDと呼ばれ、委託のS・A・Cに準じてどの規模でも応募でき、採択時には「タイプS相当」などと呼ばれます。

委託・タイプS(大規模) 委託・タイプA(小規模) 委託・タイプC(小規模) 補助・タイプD
研究期間 最大5か年度 最大3か年度 最大3か年度 最大5か年度
最大研究費(1件、間接経費を含む) 20億円(5年) 5,200万円(年) 1,300万円(年) 20億円(5年)
特徴 アイディアを具現化し、可能性と有用性を実証するところまでを目指す基礎研究。実用化に向けた実証までは求めない 新規性・独創性・革新性のある、研究テーマに合致した基礎研究 より一層独創的なアイディアに基づく基礎研究。準備状況は不問 補助金で実施。期間・規模に応じてS・A・Cに準じる
新規採択予定数 8件程度 10件程度 若干数 予算の範囲内で決定
主な対象者 大学等、公的研究機関、企業等 大学等、公的研究機関、企業等 大学等、公的研究機関、企業等 大学等、公的研究機関、企業等(民間企業を除く)

※ここでいう「企業等」とは、民間企業や、研究を主な目的とする公益社団法人、公益財団法人、一般社団法人、一般財団法人等を指します。
(参照:令和8年度 安全保障技術研究推進制度 公募要領 説明資料 | 防衛装備庁)

最大研究費は、直接経費に間接経費(研究機関の管理運営などに充てる経費。原則として直接経費の30%)を加えた額です。タイプCは、研究の準備状況の記載を求めず、研究代表者の能力や独創的なアイディアを中心に審査するため、若手研究者も応募しやすい区分とされています。審査の過程では、委員会の判断により、応募時と異なるタイプ(委託)や規模(補助)で採択されることもあります。民間企業の所属者が応募できるのは、委託事業のみです。

審査と研究の流れ

引用:令和8年度安全保障技術研究推進制度公募要領 説明資料 | 防衛装備庁

採択審査は、大学教授などの外部有識者で構成する安全保障技術研究推進委員会が、科学的・技術的見地から行います。委託・補助の区別なく同じプロセスで、書類審査、面接審査、最終審査の3段階です。令和8年度の採択に係る委員は、委員長の平澤泠氏(未来工学研究所理事長、東京大学名誉教授)ほか外部有識者の計63名で、大学・研究機関の教授や名誉教授、医療関係者などで構成されています。

審査では、研究の発展性・将来性(テーマとの整合性、成果の新規性・独創性・革新性、波及効果)、有効性、効率性などが見られ、このうち革新性と成果の波及効果が特に重視されます。防衛装備品への応用可能性は、審査の観点に入れていないと説明資料に記載されています。

令和8年度は、公募が3月13日から5月20日まで、書類審査が6〜7月頃、面接審査が7〜9月頃、採択課題の決定と公表が10月頃というスケジュールで進んでいました。委託事業は12月頃以降に契約を結んで研究を開始します。研究開始後は、防衛装備庁所属の研究者がアドバイザーとして付きますが、指導するのは研究費の不正使用や研究不正を未然に防ぐ必要がある場合に限られ、研究内容に介入することはないとされています。

令和8年度の採択結果

令和8年度は応募560件に対して47件が採択されました。内訳は委託事業33件、補助事業14件で、防衛装備庁は応募・採択の概要を次のように公表しています。(参照:令和8年度 応募・採択の概要 | 防衛装備庁)

区分 タイプS(相当) タイプA(相当) タイプC(相当) 計 機関別の内訳
委託事業 4件 18件 11件 33件 大学等17、公的研究機関10、企業等6
補助事業 3件 6件 5件 14件 大学等13、公的研究機関1
合計 7件 24件 16件 47件 大学等30、公的研究機関11、企業等6

「大学等」は大学・高等専門学校・大学共同利用機関、「公的研究機関」は独立行政法人(国立研究開発法人を含む)などを指します。

応募件数は、2024年度が203件、2025年度が340件、令和8年度が560件と急増しました。とくに大学等からの応募は、2025年度の123件から令和8年度は291件へと、前年度の約2倍となりました。小泉防衛大臣は会見で、大学等から過去最多の応募があったことに触れ、「制度趣旨を理解し、数多くの応募をいただいた」と述べています。(参照:防衛大臣記者会見 令和8年10月20日 | 防衛省)

出典:応募状況及び採択課題について | 防衛装備庁 を参考にAISでグラフ作成

機関別では、採択47件のうち大学等が30件、公的研究機関が11件、企業等が6件です。前述のとおり、大学の応募数に伴い採択数も増えています。企業等6件のうち、民間企業は国際電気通信基礎技術研究所、Patentix、三菱電機の3社で、残る3件は一般社団法人・一般財団法人(SeedFairing、ファインセラミックスセンター2件)です。企業等の採択6件は、すべて委託事業でした。(補助事業は、民間企業の応募不可)

令和8年度の注目点

医療・医工学テーマの新設

令和8年度の公募では、23の研究テーマのうち「医療・医工学に関する基礎研究」が新設されました。これまで必ずしも対象としていなかった外傷医療、救急医療、感染症、再生医療、機能再生、PTSD対策などへの寄与が期待される基礎研究を、広く募集するものです。

採択課題を見ると、医療や感染症、中毒対策に関わるものが目立ちます。東北大学の「生体内局所化学スイッチングに基づく非出血性の標的化血栓溶解システムの創製」は、重度外傷などに伴う致死的な血栓症に対し、出血リスクを伴わない安全な血栓溶解を目指す課題です。国際電気通信基礎技術研究所の「DecNefによる精神状態空間の制御原理と状態依存的介入」は、脳の活動パターンを利用するニューロフィードバック手法のDecNefを用いた、PTSDをモデルとした研究です。神戸大学の「深部脳静脈経由の刺激入力で解明する外傷後意識制御ネットワーク」は、頭部外傷などによる意識障害を扱います。

応募者に求められる研究セキュリティの取り組み

もう一つの変更点が、研究セキュリティ(研究成果や技術の意図しない流出を防ぐ取り組み)の確保です。本制度は、2025年12月に内閣府の有識者会議がとりまとめた「研究セキュリティの確保に関する取組のための手順書」の対象プログラム(特定研究開発プログラム)となりました。

このため防衛装備庁は、研究代表者と研究分担者が所属する研究機関に、リスクマネジメントの実施を求めています。面接審査の対象に選ばれた課題の研究代表者の所属機関は、リスクマネジメントの結果を質問票への回答の提出が必要となりました。手順書に違反する行為は、不正受給の行為として応募制限などの措置が講じられる場合があるとされています。

採択課題に見る分野と機関

大規模研究課題(委託のタイプS)で採択された4件は、北海道大学の「赤外線マルチスペクトルと可視光イメージの統合制御センシング」、横浜国立大学の「量子コンピュータと量子センサを量子通信で繋ぐ量子ネットワーク」、奈良先端科学技術大学院大学の「能動的電磁波照射による情報漏えい脅威の解明と防護基盤研究」、理化学研究所の「テラヘルツ光電波境界領域における超精密時空間同期の基礎研究」です。センシング、量子、セキュリティ、時空間同期と、分野は多岐にわたります。

タイプA・Cや補助事業の採択課題にも、材料(物質・材料研究機構のレアアースフリー極低温熱制御磁性材料など)、エネルギー(産業技術総合研究所の高安全固体電池など)、宇宙(北海道大学の発熱分解酸化剤を用いたハイブリッドロケットの基礎燃焼学理構築など)、AI(埼玉大学の連続時間学習ダイナミクスの理論と制御)といった課題が並びます。「ドローン」に言及する課題は2件でした。岐阜大学の炭素繊維の課題は、ドローンに代表される次世代輸送機器に必要な軽くて強い炭素繊維複合材料を扱い、大阪大学の蓄電池の課題は、データセンターやドローンなどの次世代インフラ用蓄電池を挙げています。

防衛省では、スタートアップ向けの研究開発支援制度(防衛省版SBIR)も募集中です。

まとめ:今後の注目点

令和8年度の安全保障技術研究推進制度は、過去最多の応募560件を集め、医療・医工学テーマの新設や研究セキュリティへの対応など、制度の枠組みにも変化がありました。今後は、採択された研究が各年度の評価を経てどのように進むのか、新設の医療・医工学テーマが次年度以降の公募でどう位置づけられるのかが注目点です。

また、小泉防衛大臣は会見で、制度を活用する研究者の成果について、「防衛分野での将来の研究開発に資することに加え、防衛分野以外での我が国の科学技術・イノベーションにも広く寄与することを期待」すると述べました。防衛と民生の双方にまたがる技術の考え方は、デュアルユース技術として別の記事で扱っています。

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AISブログ編集部

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