10月に入り、政府は副首都の指定要件(政令案)を公表しました。46都道府県のうち、現時点で要件を満たすのは北海道・愛知・大阪・福岡の4件です。10月15日には、札幌市内で「北海道副首都推進会議」の初会合が開催され、鈴木直道知事、秋元克弘札幌市長ほか経済団体の会長らが出席し、鈴木知事は「オール北海道で(副首都)指定を目指す」と語りました。
ニュースや会議で「副首都法案」という言葉を耳にしたものの、具体的に何を決める法律で、なぜ今このタイミングで自治体が動いているのか、いまひとつ整理できていない方も多いのではないでしょうか。本記事では、2026年7月に国会で可決・成立した副首都に関する法律の成立の経緯と、政府が発表した副首都の要件、首都直下地震などの大規模災害への備えという観点から見た防災上のメリット、そして現時点で指摘されうる懸念点を紹介します。
- 「副首都法」(正式名称:国家社会機能継続性確保施策及び副首都の整備に係る施策の推進に関する法律)は2026年7月24日、参議院本会議で可決・成立済み(賛成123・反対121)
- 2026年8月31日、北海道・大阪府が副首都の複数指定を国に働きかける連携協定を締結。10月3日には政府が指定要件の政令案を公表し、北海道・愛知・大阪・福岡の4道府県が現時点で地理・行政機構・人口・経済の要件を満たす。政令は10月下旬に決定される見通し
- 防災上は首都機能のバックアップによる行政継続性の確保がメリットとされる一方、実際にどこが指定されるか、コスト負担や実効性は今後の運用次第。
副首都法とは何か(正式名称と成立の経緯)
「副首都法案」として報道・言及されることが多いこの法律の正式名称は、「国家社会機能継続性確保施策及び副首都の整備に係る施策の推進に関する法律」(衆議院提出)です。2026年7月24日、第221回国会の参議院本会議で採決が行われ、投票総数244票のうち賛成123票・反対121票で可決・成立しました。(参照:第221回国会 議案審議情報(投票結果) | 参議院)
法律名からもうかがえる通り、この法律は「国家社会機能継続性確保施策」(平時・有事を問わず国の重要な機能を維持し続けるための施策)と、「副首都の整備に係る施策の推進」(首都の代替機能を担う都市の整備を進める施策)という2つの柱を持つものとされます。ただし、現時点では、どこをどの機関がどのような基準で副首都を指定するのかといった運用の詳細は、今後公表される政省令や関連情報を通じて明らかになっていく段階です。
「副首都」という言葉自体は、単に「首都に次ぐ都市」という意味ではなく、平時は独自の成長拠点として機能しつつ、有事には首都機能の一部を引き受けるバックアップ拠点、という2つの役割を併せ持つ都市像として語られている点が特徴です。日本維新の会は大阪を拠点とする政党として、副首都構想を政策の柱の一つに位置づけてきた経緯があり、北海道・大阪府の連携協定も、法律で示された枠組みのもとで実際にどの地域が指定されるかという次の局面をにらんだ動きだといえます。
副首都の主な要件
政府は2026年10月3日、副首都の指定に係る要件を定める政令案(法律の施行令等の案)を発表しました。案の主な内容は次のとおりです。
- 前提となる地域の要件(首都中枢機能代替地域):首都直下地震緊急対策区域と、富士山の火山災害警戒地域のいずれにも該当しない地域
- 国の行政機構の立地:地方支分部局が14以上設置されている市町村
- 人口の集積:国内総人口に対する指定都市の人口の割合が1.2%以上の指定都市
- 経済の集積:国内総生産に対する道府県内総生産の割合が2.1%以上の道府県
- 地方行政体制(次のいずれかを満たすこと)
- 大都市法に基づく特別区の設置
- 地方自治法に基づく連携協約の締結と、推進体制の構築
連携協約を選ぶ場合は、次の内容が求められます。
- 道府県と指定都市が、首都中枢機能の代替と経済成長のための基本的な計画を共同で作成する
- 産業振興、情報通信、教育・研究、都市計画、公共施設の整備、防災などについて、連携する事務、役割分担、連携方法を具体的に定める
- 副首都の整備に係る施策を推進するための内部組織を共同で設置する
- 指定都市都道府県調整会議を、毎会計年度に2回以上開き、協議結果などをそれぞれの議会に報告して公表する
- 道府県内に複数の指定都市がある場合、要件を満たす指定都市以外の指定都市とも、同様の連携協約を結べる
今後のスケジュールは、2026年10月末に政府令を公布する予定です。(参照:国家社会機能継続性確保施策及び副首都の整備に係る施策の推進に関する法律施行令等(案)について | 内閣官房)
北海道・大阪府の連携協定—それぞれの構想
政令案では、北海道・愛知・大阪・福岡の4道府県が現時点で3つの要件を満たしており、いずれも国への申請の意向を示しています。
北海道と大阪府は、副首都指定に向けた連携を進めており、2026年8月31日、札幌市で会談した両知事は「大規模災害時などに首都機能を代替する副首都の実現に向けた連携協定を締結し、北海道と大阪の複数指定を目指して共闘することを確認」しました。
会談で吉村知事は「それぞれの個性を生かしながら多極成長型の国家を目指すべきだ」と述べ、鈴木知事も「副首都を目指している同士が連携し、バックアップや多極成長の可能性について示すことが有効だ」と語りました。鈴木知事はこの協定締結の前週にも、東京で黄川田仁志地方創生担当相に対し、複数の地域を副首都に指定するよう要望していたことが報じられています。
- 副首都を目指す道府県同士の協定は今回が初めて
- 「単一の副首都」ではなく「複数指定」を国に働きかける方針
- 目的はバックアップ機能と多極成長型国家の両立
ここで注目なのが、前述の副首都指定要件の中にある「地方行政体制」への両者の対応方針の違いです。政令案では、①大都市法に基づく特別区の設置、または②地方自治法に基づく連携協約の締結と、推進体制の構築 のどちらかを満たすことが必要とされています。
このうち、大阪が前提としているのは前者です。地域政党である大阪維新の会は、大阪市の再編と特別区の設置を目指す、いわゆる「大阪都構想」の実現を目指して来ました。特別区の設置には大都市法に基づく住民投票が必要ですが、過去2回の住民投票ではいずれも否決となり、現在まで特別区の設置には至っていません。かねて3回目を目指しており、法成立の日には統一地方選との同日実施に意欲を示し、現在大阪維新の会では「特別区の名称に関するアンケート」を実施しています。(参照:大阪都構想 新4区案 [最終・第3弾] 特別区の名称に関するアンケート | 大阪維新の会)
一方、北海道は札幌市とともに、連携協約の締結に向けた協議を急ぐ意向を示しています。2026年10月3日、鈴木知事と秋元市長はそれぞれコメントを発表しました。また、10月15日には北海道と札幌市が経済団体や農協などを集めた「北海道副首都推進会議」の初会合を開き、鈴木知事が関係団体に連携協力を呼びかけています。(参照:北海道副首都推進会議設置要綱(案)| 札幌市)
このほか、愛知県・名古屋市は8月に「愛知・名古屋副首都連携協議会」及び「愛知県副首都推進会議」を開催し、これまでにそれぞれ1回ずつ会議が開催されています。(参照:「愛知・名古屋副首都連携協議会」及び「愛知県副首都推進会議」について | 愛知県)
また、福岡県は福岡市・北九州市との連携の強化を見据えて、「副首都指定の実現に向けた連絡会議」を設置し、10月5日には服部誠太郎知事・高島宗一郎福岡市長・武内和久北九州市長が連名で、藤井比早之副首都整備等推進担当大臣に「「副首都・福岡県」の実現に向けた要望」を提出しました。(参照:「副首都・福岡県」の実現に向けた要望 | 福岡県・福岡市・北九州市)
なぜ今、指定基準や運用に注目が集まっているのか
副首都をめぐる議論が改めて注目されている背景には、大きく2つの要因があります。1つは首都直下地震をはじめとする大規模災害リスクへの備え、もう1つは法律成立後の運用局面に向けた自治体側の具体的なアクションです。
首都直下地震への備えという文脈
内閣府は2026年6月に「首都直下地震緊急対策推進基本計画」を改定しました。この計画は、首都直下地震が発生した際の減災目標や対応方針を定めるもので、政府の業務継続計画(BCP)の実効性確保や、首都中枢機能のバックアップのあり方が、継続的な検討課題として位置づけられています。(参照:首都直下地震対策 | 内閣府防災情報のページ)
首都圏に政治・行政・経済の中枢機能が極端に集中している現状は、平時の効率性という面ではメリットがある一方、ひとたび大規模災害が発生すると、日本全体の意思決定機能や経済活動が同時に停止しかねないリスクを抱えています。副首都法は、このリスクを分散させるための法的な枠組みとして位置づけられています。
首都機能のバックアップによる行政継続性というメリット
副首都構想が防災・危機管理の観点から評価される最大の理由は、首都機能のバックアップによる行政継続性(BCP)の確保です。中央省庁や国会、金融の中枢機能が東京に一極集中している現状では、首都直下地震のような広域・同時多発型の災害が起きた場合、政府の意思決定機能そのものが停止するリスクが指摘されています。
副首都を法律に基づいて指定・整備できれば、災害時に指揮命令系統や重要データ、業務システムを代替拠点へ切り替えることが理論上は可能になり、行政サービスや経済活動の停止期間を短縮できると期待されています。これは企業が策定する事業継続計画(BCP)と同じ発想で、国という単位でのリスク分散策と言い換えることもできます。
| 観点 | メリットとして期待される点 | 懸念点として指摘されうる点 |
|---|---|---|
| 行政継続性 | 首都機能停止時のバックアップ拠点を確保できる | 実際の権限移譲や運用体制の設計はこれから |
| 地域振興 | 多極成長型の国家づくり、地方の成長拠点化 | 指定を巡る自治体間の競争・綱引きが生じうる |
| コスト | 災害時の被害・経済損失の抑制につながる可能性 | 拠点整備・維持にかかる財政負担は未確定 |
デメリット・懸念点として想定される論点
想定される論点として、コスト負担の問題が挙げられます。首都機能の一部を代替できるだけのインフラ・システム・人材を地方都市に整備するには、相応の財政負担が発生します。誰がその費用を負担し、どのような優先順位で整備を進めるのかは、今後の運用設計・予算措置の議論を待つ必要があります。
また、実効性への疑問も想定されます。副首都を指定したとしても、実際の災害時に権限移譲や指揮系統の切り替えがスムーズに機能するかどうかは、平時からの訓練や制度運用の積み重ねにかかっています。看板だけの「副首都」に終わらせず、実際に機能する仕組みとして設計できるかが、今後の焦点になると考えられます。
自社の業務にどう関係するか
副首都構想は国レベルの制度議論ですが、企業のBCPやリスク管理を担当する立場からも無関係ではありません。仮に首都圏の本社機能が被災した場合、自社の意思決定・システム・データをどこでどう継続するかという課題は、副首都法が国レベルで扱っているテーマの縮図でもあります。中央省庁の議論の動向を追いつつ、自社のBCPにおいても「本社機能のバックアップ拠点をどこに、どこまで整備するか」を改めて点検しておくと良いでしょう。
まとめ
副首都法(正式名称:国家社会機能継続性確保施策及び副首都の整備に係る施策の推進に関する法律)は、2026年7月24日に参議院本会議で可決・成立しました。首都直下地震などの大規模災害リスクに備え、行政・経済の中枢機能を分散させることを目的とした法律で、北海道・大阪府をはじめとする自治体は、法律に基づく副首都の「複数指定」を国に働きかける段階に入っています。防災上は行政継続性の確保という明確なメリットがある一方、指定基準やコスト負担、実効性については今後の運用設計を注視する必要があります。自社のBCPを考えるうえでも、国レベルのこうした制度の運用状況は一つの参考材料になるはずです。