【自民党の新潮流】「ニュー安保族」とは?族議員の変遷に見る安全保障の変化

【自民党の新潮流】「ニュー安保族」とは?族議員の変遷に見る安全保障の変化

9月に入り、内閣改造・自民党の役員人事が取り沙汰される中、注目を集めているのが自民党内の中堅・若手議員から成る「ニュー安保族」の面々です。

ニュー安保族というくくりは、今年に入って産経新聞により命名されたとされています。従来「防衛族」と呼ばれてきた議員像とは異なる顔ぶれが、なぜ今、安全保障政策の担い手として注目されているのでしょうか。

背景には、安全保障という言葉そのものが指し示す範囲の変化があります。かつては自衛隊や日米同盟といった軍事分野を中心に語られてきた安全保障が、経済・技術・エネルギー・情報発信までを含む「総合的な国力」の問題として捉え直されつつあるのです。

本記事では、そもそも「族議員」とは何かという基礎知識から、「防衛族」が歩んできた歴史的な経緯、そして「ニュー安保族」がなぜ新しいと言われるのかを紹介します。

この記事のポイント
  • 族議員とは、特定の政策分野に精通し関係省庁・業界に影響力を持つ議員を指す通称
  • 「防衛族」は55年体制下で形成され、冷戦後・安保法制・2022年の安保三文書改定を経て変化してきた
  • 「ニュー安保族」は経済安全保障・AI・エネルギーなど非軍事分野を出自とする議員の総称で、安全保障の対象が「総合的な国力」へ広がったことを映す動き

「族議員」とは何か ― 政策分野に強い議員を指す言葉

「族議員」とは、農林・道路・厚生労働・防衛といった特定の政策分野について専門知識を蓄積し、関係省庁や業界団体との太いパイプを背景に、法案づくりや予算配分に強い発言力を持つ国会議員を指す通称です。学術的・法律的な定義があるわけではなく、政治報道や政治学の分野で使われてきた慣用的な呼び方だといえます。

族議員は特定分野の政策に精通しているため、専門的な法案審議を円滑に進める役割を担う一方、業界の利害を代弁しすぎて政策がゆがむ「族議員政治」への批判も長く指摘されてきました。安全保障分野で「族議員」と呼ばれてきたのが、いわゆる「防衛族」です。

「防衛族」の系譜 ― 戦後安保論議から続く歴史

日本の安全保障政策は、戦後長らく「専守防衛」を基本方針とし、憲法9条や日米安全保障条約をめぐる国会論議を中心に展開してきました。55年体制の下では、防衛庁(当時)や自衛隊の予算・装備調達に通じた一部の議員が、党内の安全保障調査会や国防部会で中心的な役割を担い、「防衛族」と呼ばれるようになります。

冷戦終結後は、湾岸戦争を機にPKO協力法が成立し、自衛隊の海外派遣という新たな論点が加わりました。2015年には集団的自衛権の一部行使を可能にする安全保障関連法が成立し、防衛政策の議論はより幅広い外交・法制の知見を必要とするようになります。

さらに2022年12月、政府は国家安全保障戦略を含む「安保三文書」を改定し、防衛力の抜本的強化とあわせて、経済安全保障やAIをはじめとする先端技術を安全保障政策の中に明確に位置づけました。防衛族という言葉が長らく前提としてきた「安全保障=軍事・防衛」という図式そのものが、この頃から変わり始めたと見ることができます。

安全保障の概念が変わった ― 軍事から「総合的な国力」へ

この変化を制度面で象徴するのが、経済安全保障推進法です。内閣府によると、同法は重要物資の安定供給確保・基幹インフラの安全性確保・先端的重要技術の開発支援・特許出願の非公開化に、新設の経済安保海外事業促進制度(OESA)を加えた5つの制度から構成されており、経済活動そのものを安全保障の対象として扱う枠組みを整えています(参照:経済安全保障法制について | 内閣府)。

科学技術政策との連携も進んでいます。地経学研究所の分析によると、2026年3月に閣議決定された第7期科学技術・イノベーション基本計画では「科学技術と国家安全保障との有機的連携」が主要な政策課題として明示され、民生技術と安全保障用途の技術を区別することは「極めて困難」であるとの認識のもと、大学やスタートアップを含む研究エコシステム全体を視野に入れた検討が進められているといいます(参照:科学研究・イノベーション・安全保障をどう接続するか | 地経学研究所)。

現在の内閣でも、経済安全保障は防衛・外交と並ぶ独立した担当分野として位置づけられています。2026年9月時点で、防衛大臣は小泉進次郎氏、外務大臣は茂木敏充氏が務める一方、経済安全保障は内閣府特命担当大臣として小野田紀美氏が、クールジャパン戦略・知的財産戦略・科学技術政策・宇宙政策・AI戦略とあわせて所管しています(参照:内閣の顔ぶれ | 首相官邸)。防衛・外交とは別に経済安全保障専門の大臣ポストが設けられていること自体が、安全保障政策の裾野が広がったことの一つの表れだといえるでしょう。

軍事中心の安全保障から、外交・経済・技術・情報を含む「総合的な国力」へと対象が広がった
安全保障の裾野が広がっている政策領域の例
  • 経済安全保障推進法による重要物資・インフラ・先端技術・特許非公開の枠組み
  • 科学技術・イノベーション基本計画と安全保障政策の連携(デュアルユース技術)
  • 防衛省による生成AIを活用した情勢分析・業務効率化の取り組み

防衛省の取り組みにも、この流れは表れています。時事通信の報道によると、防衛省は2026年9月4日、米国・イスラエルとイランの戦闘における分析結果を公表し、攻撃目標や手段の選定にAIを活用することで意思決定の速度を高める動きが進んでいるとの認識を示しました。無人機の大量運用とAIを組み合わせた戦い方が定着しつつあるとして、自衛隊としても装備面での対応を急ぐ必要があると指摘しており、こうした分析は年末に予定される安保三文書の改定にも反映される見通しです(参照:防衛省、AI活用重要性訴え 米イラン戦闘分析 | 時事通信)。

「ニュー安保族」は何が新しいのか ― 従来の防衛族との違い

2026年8月12日放送のBSフジ「プライムニュース」では、塩崎彰久衆議院議員が出演し、こうした安全保障概念の広がりを背景に、自民党内で従来とは異なる形で安全保障政策に関わる中堅・若手議員が「ニュー安保族」として紹介されました。番組では、石破茂氏・中谷元氏・小野寺五典氏・岩屋毅氏・浜田靖一氏ら、長年防衛政策に携わってきた議員が従来型の「安全保障通」として位置づけられる一方、危機管理・AI・インテリジェンス分野を出自とする塩崎彰久氏や、経済安全保障政策に関わってきた小林鷹之氏・大野敬太郎氏・鈴木英敬氏らが、「ニュー安保族」を象徴する顔ぶれとして名前を挙げられていました。(参照:【自民党で“シン世代”が台頭】「ニュー安保族」という新潮流 塩崎彰久×高橋杉雄 2026/8/12放送<前編>| YouTube)

従来の防衛族とニュー安保族の違いを整理すると、次のようになります。

項目 従来の防衛族 ニュー安保族
主な出自・専門分野 防衛装備・日米同盟・防衛法制 経済安全保障、AI、危機管理、エネルギー政策など
関心の中心 自衛隊の予算・装備調達、防衛法制の整備 サプライチェーン、先端技術、情報発信、AI活用
安全保障の捉え方 軍事・防衛中心 外交・経済・技術・情報を含む総合的な国力

また、それぞれの議員の経歴は次の通りです。小林氏は大蔵省官僚出身、大野氏は理系で民間企業勤務の経験があるなど、必ずしも、従来の「防衛」畑出身ではないことが分かります。

  • 小林鷹之氏:東京大学法学部卒業後、大蔵省(現財務省)に入省し、ハーバード大学ケネディ行政大学院で公共政策学修士を取得。2012年衆議院初当選(当選4回)、2021年に初代・経済安全保障担当大臣に就任。2024年の自民党総裁選にも出馬。
  • 大野敬太郎氏:東京工業大学大学院修了、東京大学で情報理工学博士号を取得。富士通での勤務を経て2012年衆議院初当選(香川3区、当選6回)。防衛大臣政務官、内閣府副大臣を歴任し、現在は自民党経済安全保障推進本部長・安全保障調査会幹事長を務める。
  • 鈴木英敬氏:東京大学経済学部卒業後、通商産業省(現経済産業省)に入省。2011年に全国最年少(36歳)で三重県知事に就任し3期務めた後、2021年衆議院初当選(三重4区、当選3回)。内閣府大臣政務官を経て、自民党経済安全保障推進本部で幹事・事務局長代理を務める。
  • 塩崎彰久氏:東京大学法学部卒業後、長島・大野・常松法律事務所で19年間、危機管理・コンプライアンス分野の弁護士として活動。オリンパス事件の告発などに携わったほか、福島原発事故独立検証委員会や新型コロナ民間臨調にも参画。2021年衆議院初当選(愛媛1区、当選3回)、厚生労働大臣政務官などを歴任。

つまり「ニュー安保族」とは、特定の新しい党内組織や公式な役職を指す言葉というより、安全保障の対象領域が非軍事分野へ広がったことに伴い、経済・技術・危機管理といった専門性を持つ議員が安全保障政策の議論に加わってきた現象を指す呼び名だと理解するとわかりやすいでしょう。防衛族という言葉が生まれた頃には存在しなかった経済安全保障相のようなポストが今や設けられていること自体、この変化を裏づけています。

AIやドローンなど「新領域」との関わり ― 私たちの仕事への示唆

この変化は、政治の世界だけの話ではありません。経済安全保障の観点からサプライチェーンの点検・監視にドローンやGISが使われたり、防衛省のようにAIを情勢分析や業務効率化に活用する動きが民間の危機管理・インフラ点検にも広がったりと、「総合的な国力」を支える技術は、ビジネスパーソンの日常業務とも地続きになりつつあります。自社の調達網や情報管理が経済安全保障の観点から見てどう評価されるか、一度点検してみる価値はあるでしょう。

✎ AIS Insight

AISが「ドローン・AI・サイバーセキュリティ・防災・GIS・インテリジェンス」という「新領域」を横断的に扱っているのも、まさにこの安全保障概念の広がりを踏まえてのことです。国や防衛の話として遠くに感じられがちなテーマも、点検・物流・見守り・行政サービスといった身近な業務の延長線上にあると捉えると、「ニュー安保族」が示す変化は決して政治家だけの話ではないことが見えてきます。

まとめ

「ニュー安保族」という言葉は、自民党内の新しい派閥や公式組織を指すものではなく、安全保障の対象が軍事から経済・技術・情報を含む総合的な国力へと広がったことを映す現象として理解するのが実態に近いといえます。族議員という仕組み自体は今後も残るとしても、その専門分野の裾野は確実に広がっています。今後、経済安全保障やAI関連の政策・規制がどのように具体化していくかは、企業のリスク管理や事業戦略にも直接関わってくるテーマとして、引き続き注目していく必要があるでしょう。

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AISブログ編集部

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「専門性の高いテーマをわかりやすく」を合言葉に、AI・ドローン・防災・安全保障・インテリジェンス領域の情報を発信中。官公庁や企業の一次情報を情報源とし、参照元を明記した正確な情報発信を心がけています。

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