防衛省が対策に本腰...「認知戦」を具体例と共に解説

防衛省が対策に本腰...「認知戦」を具体例と共に解説

朝日新聞は2026年8月24日、防衛省が「認知戦」への対策を担う専門部署を防衛政策局内に新設する方向で検討していると報じました。参事官をトップとする体制になる見通しだと伝えられています。(参照:防衛省、「認知戦」の対策強化で部署を新設へ 政府対応には課題 | 朝日新聞デジタル)

ニュースで「認知戦」という言葉を目にして、「サイバー攻撃とは違うのか」「自社には関係のない、軍事や外交の世界の話だろう」と感じた方も多いのではないでしょうか。しかし認知戦は、SNSを通じた情報操作という形で、すでに私たちの身近な情報環境に入り込んでいます。本記事では、認知戦の定義と具体的な手口、なぜ今これほど注目されているのかという背景、そして技術系ビジネスパーソンが押さえておくべき示唆を整理します。

この記事のポイント
  • 防衛省が認知戦対策の専門部署新設を検討中と2026年8月24日付で朝日新聞が報道
  • 認知戦は人の「認識」や感情に働きかけ、行動そのものを変えようとする情報戦の一形態
  • ロシア・中国による影響工作や生成AIの発達により、日本語空間も対岸の火事ではなくなりつつある

「認知戦」とは何か 人の「認識」を標的にする戦い

「認知戦(Cognitive Warfare)」とは、偽情報や偏った情報の拡散を通じて人の認識そのものに働きかけ、感情や判断、さらには行動にまで影響を与えようとする戦いの形態を指します。安全保障の専門家は、視覚や聴覚といった感覚入力から記憶(ワーキングメモリ)を経て「現実の解釈」が形成される領域を「認知領域」と呼び、認知戦はこの領域そのものを攻撃対象にすると説明しています。(参照:認知領域の戦いにおける陰謀論の脅威 | 笹川平和財団 国際情報ネットワーク分析IINA)

サイバー攻撃がシステムやネットワークを狙うのに対し、認知戦が狙うのは人の頭の中です。具体的な手口としては、次のようなものが挙げられます。

  • 陰謀論やミーム(伝播しやすい画像・言説)を通じた独自の世界観の刷り込み
  • SNS上でのボットやなりすましアカウントによる投稿の量産・増幅
  • マイクロターゲティング(個人の属性や関心に合わせた情報配信)による効果的な拡散
  • 既存の社会的対立構造を意図的に利用した分断の助長

こうした手口が組み合わさることで、受け手は自分では「自然に情報を集めて判断した」つもりでも、実際には特定の方向へ誘導された認識を持ってしまうことがあります。

なぜ今、認知戦が重視されているのか

ロシアによる情報操作の実例

ロシアをめぐっては、2016年の英国のEU離脱(ブレグジット)を問う国民投票や米大統領選挙で、ディスインフォメーション(意図的な偽情報)の流布に関与したとされるアカウント群が確認されており、その後も陰謀論コミュニティを介した情報拡散の手法が使われ続けていると指摘されています。ロシアによるウクライナ侵攻をめぐっても、「ウクライナには米国主導の生物兵器研究所がある」とする偽情報がSNS上で900万件以上拡散したとされ、親ロシア的な言説が陰謀論を扱うコミュニティを通じて広がった経緯が報告されています。

中国による対日・アジア地域への影響工作

中国についても、台湾の総統選挙(2016年・2018年の統一地方選)、フィリピンとの南シナ海領有権問題、ソロモン諸島での政変をめぐる情報工作など、周辺国・地域を対象とした事例が報告されています。ソロモン諸島では「米国が親中派首相の暗殺を企図している」とする根拠不明の情報が流布した例も確認されているとのことです。日本に対しても、2026年の衆議院議員選挙をめぐって「特定の政治指導者は軍国主義者だ」といった扇動的なミームが組織的に投稿され、証拠隠滅のためとみられるアカウント削除が行われた形跡が指摘されています。(参照:インド太平洋地域で増大する影響工作の脅威 | 笹川平和財団 国際情報ネットワーク分析IINA)

日本の選挙を揺るがすSNS工作の実態

日本国内でも、選挙をめぐるSNS上の投稿量に不自然な急増が確認されています。2025年の参議院議員選挙では、特定の政治家への批判的な投稿が、選挙前の半年間は1日あたり5万件程度だったものが選挙期間中には1日15万件にまで急増したとされます。排外的なスローガンを含む投稿も、1日数千件規模から選挙期間中には1日20万件超へと20倍以上に増加したと報告されており、ボットによる投稿の量産が背景にあるとみられています。

主体 主な手口 報告されている事例
ロシア ディスインフォメーションの拡散、陰謀論コミュニティの活用 ブレグジット・米大統領選、ウクライナ生物兵器デマ(900万件超拡散)
中国 SNS上での組織的な世論工作、扇動的ミームの投稿 台湾総統選、フィリピン領有権問題、ソロモン諸島、日本の衆院選
日本国内(選挙関連) ボットによる投稿の量産・増幅 2025年参院選での批判・排外的投稿の急増

こうした事例が急増している背景には、生成AIの発達があります。従来、日本語は文法や言い回しの独特さから「言語の壁」に守られてきましたが、生成AIによって口語体でも自然な翻訳が可能になり、ネイティブでなくても不自然さの少ない日本語投稿を大量生成できるようになりました。偽の画像・映像・音声の作成コストも下がっており、日本語空間も影響工作の対象から外れられなくなりつつあると指摘されています。

日本の対応の現状と課題

こうした状況を受けて、対応策として挙げられているのが、自国語空間での監視体制の強化、ファクトチェック体制の整備、国民の情報リテラシー向上、SNS運営企業への協力要請、そして影響工作の対象となっている国同士の国際連携です。

こうしたファクトチェック体制の整備においては、公開情報を組み合わせて事実関係を検証する手法が土台になります。

冒頭で紹介した、防衛省が防衛政策局内に認知戦対策の専門部署を新設する方向で検討しているという報道も、こうした流れの延長線上にあるといえます。防衛省・自衛隊は近年、宇宙・サイバー・電磁波といった新領域への対応強化を掲げてきましたが、認知領域への組織的な取り組みが今回のように具体化するのは、国内の議論としても一つの節目といえるでしょう。

個人・企業が今日からできる認知戦対策
  • 強い感情(怒り・不安・義憤)を煽る投稿ほど、拡散する前に出所を確認する
  • 一次情報(公的機関・企業の公式発表)に当たる習慣をチームで共有する
  • 自社名やブランドを騙るなりすましアカウント・偽情報の発生を定期的に確認する

まとめ 技術系ビジネスパーソンへの示唆

認知戦は、軍や政府だけが対峙する遠い世界の話ではなく、SNSを通じて誰もが日常的に接している情報環境の中で進行しています。ドローンやGIS、サイバーセキュリティなど「新領域」の技術に関わるビジネスパーソンにとっても、二つの意味で無関係ではありません。一つは、自分自身が偽情報や扇動的な投稿に無自覚に影響される受け手になりうるという点です。もう一つは、自社の情報発信やSNSアカウントが、なりすましや誤情報の発信源として悪用されるリスクがあるという点です。情報の出所を確認する習慣を組織として持つこと、そして自社ブランドを騙る発信がないか定期的に確認することは、規模の大小を問わず今日から始められる備えといえます。

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AISブログ編集部

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