外務省は2026年8月、令和9年度(2027年度)予算の概算要求を公表しました。概算要求とは、各省庁が来年度の予算に必要な金額や項目を財務省に提出する、毎年8月頃に行われる恒例の手続きのことです。今回の要求総額は、金額を示さずに項目だけを要求し年末の予算編成過程で金額を詰める「事項要求」を含めて1兆2,165億円規模に達し、前年度の実質ベース(令和8年度当初予算と令和7年度補正予算等の合計、1兆14億円)から拡大しています。
今回の要求で特に注目されるのが、「安全保障関連ODA」という区分が初めて明記された点です。ODA(政府開発援助)の枠組みを使い、同志国の安全保障能力の向上を支援する取り組みが、外務省予算の最優先項目として位置づけられました。本記事では、令和9年度概算要求のうち安全保障関連の予算に焦点を当て、前年度の令和8年度概算要求との違いを整理します。(参照:外務省予算・決算 | 外務省)
- 外務省の令和9年度概算要求は1兆2,165億円+事項要求で前年度から拡大
- 「安全保障関連ODA」を柱の最上位に初めて明記、3分野で構成
- いずれも概算要求段階の数字であり、年末の予算編成で変動する可能性
令和9年度概算要求の全体像
外務省は例年、予算全体を複数の「柱」に整理して公表しています。令和9年度の要求では5本の柱が示され、これまで「日本にとって望ましい国際秩序の形成」という大きな括りの一部だった安全保障が、柱1「日本に有利な安全保障環境の創出」(1,576億円、前年度1,257億円)として独立し、最優先の柱に格上げされました。柱2は経済外交(5,384億円)、柱3はインテリジェンス強化・認知戦対応(555億円)、柱4は文化外交(508億円)、柱5は外交・領事実施体制の充実(4,142億円)です。
これに加えて、要求上限を設けない別枠として「強く豊かな日本投資枠」(2,998億円+事項要求)が新設されました。経済安全保障ODAや防衛産業成長投資など8分野で構成され、このうち防衛産業成長投資は、同志国に対する資機材の供与やインフラ整備を行う政府安全保障能力強化支援(OSA)を通じて、国産の防衛装備品を調達する取り組みと位置づけられています。
初めて明記された「安全保障関連ODA」とは
柱1のサブ項目として今回新たに示されたのが安全保障関連ODAです。外務省の資料では、以下の3分野が示されています。
- シーレーン(海上交通路)の安定化に向けた海図整備等の支援
- 同志国のインフラ整備支援
- サイバーセキュリティ能力強化に係る支援
ODAは本来、開発途上国への経済協力を目的とする枠組みですが、今回の要求ではそこに安全保障の観点を明確に組み込んだ点が特徴です。柱1にはこのほか、OSAの強化や、中東情勢を始めとする緊迫した国際情勢への対応も盛り込まれています。予算全体像を示す図では、OSAは181億円の事項要求として引き続き示されました。
3分野の中で目を引くのが「サイバーセキュリティ能力強化に係る支援」です。ODAという開発協力の枠組みの中に、他国のサイバー防御力を高める支援メニューが明記されたことは、注視する価値があります。もっとも現時点では要求段階の記載にとどまり、具体的な事業スキームはこれから固まる見通しです。
令和8年度からの変化
令和8年度(2026年度)概算要求(令和7年8月公表)と比較すると、柱の構成・順位に明確な変化が見られます。
| 柱 | 令和8年度概算要求 | 令和9年度概算要求 |
|---|---|---|
| 柱1 | 日本にとって望ましい国際秩序の形成(安全保障を含む)1,465億円 | 日本に有利な安全保障環境の創出 1,576億円 |
| 柱2 | 日本経済の活性化・強靱化 3,158億円 | 日本を強く、豊かにする経済外交 5,384億円 |
| 柱3 | 文化外交の抜本的強化 461億円 | インテリジェンス強化と認知戦への対応 555億円 |
| 柱4 | 情報戦時代における「攻め」と「守り」441億円 | 戦略的な文化外交 508億円 |
| 柱5 | 外交・領事実施体制の抜本的強化 3,218億円 | 「外交力」抜本的強化のための実施体制充実 4,142億円 |
なお、表中の令和8年度・柱1の合計額1,465億円は、安全保障以外の国際秩序関連項目も含んだ当時の括りでの金額です。これに対し、冒頭で触れた前年度1,257億円は、令和9年度の新しい柱1(安全保障関連に特化した括り)の定義に沿って令和8年度の実績を再集計した場合の相当額であり、単純な誤差ではなく集計範囲の違いによるものです。表からも分かる通り、令和8年度では情報戦・インテリジェンス対応が柱4(441億円)に位置づけられていたのに対し、令和9年度では柱3(555億円)に格上げされ、予算額も増加しています。
また令和8年度の資料には「安全保障関連ODA」という名称・分類は明記されておらず、OSAも柱1内の一項目としての記載にとどまっていました。安全保障が単独の最優先の柱として扱われるようになったこと自体が、今回の要求の大きな特徴だといえます。(参照:外務省予算・決算 | 外務省)
現時点で分かっていること
今回公表された数字は、あくまで外務省が財務省に提出した要求段階の内容です。事項要求とされた項目は金額が確定しておらず、OSAの181億円も含め、今後の予算編成過程で変わる可能性があります。総額の比較についても、令和8年度は令和7年度当初予算との比較、令和9年度は令和8年度当初予算と令和7年度補正予算を合わせた実質ベースとの比較であり、算出方法が異なる点には注意が必要です。安全保障関連ODAの3分野についても、現時点では方向性が示された段階で、個別事業ごとの配分額は公表されていません。
今後の焦点
年末にかけての予算編成過程で、事項要求とされたOSAや米国新政権対応などの項目にどの程度の金額が計上されるかが焦点の一つです。あわせて、新設された安全保障関連ODAが実際にどの国・地域向けの事業として具体化されるか、強く豊かな日本投資枠の防衛産業成長投資がOSAとどう連動していくかも、今後の予算編成や関連報道で明らかになっていくと見られます。
令和9年度概算要求は外務省だけでなく、防衛省や内閣官房、国土交通省など他省庁も同時期に公表しており、安全保障・防災という観点では互いに関連し合う動きといえます。あわせて以下の関連記事もご覧ください。