「衛星コンステレーション」という言葉を、ニュースや会議で耳にする機会が増えていないでしょうか。2026年2月、防衛省は衛星コンステレーションを構築するPFI事業について、契約金額が約2,831億円にのぼる大型契約を締結したと公表しました。
衛星コンステレーションは、単一の人工衛星ではなく、多数の衛星を連携させて運用する仕組みです。なぜ今、この仕組みはこれほど注目され、安全保障の分野でどのような役割を担おうとしているのでしょうか。
本記事では、衛星コンステレーションが注目される背景と基本的な仕組み・活用分野を整理したうえで、防衛省が進める「衛星コンステレーションの整備・運営等事業」の内容を紹介します。
- 衛星コンステレーションは複数の衛星を連携運用し、高頻度な観測・通信を実現する仕組み
- 防衛省は2026年2月、三菱電機を代表企業とするグループと約2,831億円のPFI事業契約を締結
- BOO方式により民間事業者が衛星・地上施設を保有し、防衛省が撮像優先権を確保する設計
なぜ今、衛星コンステレーションが注目されているのか
衛星コンステレーションへの関心が高まっている背景には、宇宙技術の革新があります。防衛省が2025年4月に公表した実施方針では、「昨今、宇宙技術の革新が急速に進み、小型衛星コンステレーションを構築し画像情報を高頻度に提供する民間ビジネスが拡大している」と紹介されています。(参照:衛星コンステレーションの整備・運営等事業 実施方針 | 防衛省)
小型衛星は製造・打ち上げコストが従来型の大型衛星より抑えられるため、多数機を組み合わせたコンステレーションとして展開しやすいという特徴があります。この結果、民間企業が独自に衛星画像・データを取得し、防災・農業・インフラ点検といった分野に販売するビジネスモデルが世界的に拡大してきました。
一方で、こうした民間商用衛星のサービスを国の安全保障目的で利用しようとする場合には、さまざまな課題も指摘されています。こうした関心の高まりを踏まえ、まずは衛星コンステレーションの基本的な仕組みを確認します。
衛星コンステレーションとは

衛星コンステレーション(Satellite Constellation)とは、複数の人工衛星を連携させて運用するシステムを指します。1機の衛星だけでは、地球を一周する間に観測できる地域や時間帯が限られてしまいますが、多数の衛星を役割分担させながら周回させることで、同じ地点をより高い頻度で観測したり、切れ目のない通信を実現したりできるようになります。
欧州宇宙機関等が主導する地球観測プログラム「Copernicus」も、この仕組みを採用する代表例のひとつです。Copernicusは複数の観測衛星群(Sentinel衛星ミッション)から構成され、取得したデータを誰でも無料で利用できる形で提供しています。衛星コンステレーションが実際にどのような場面で使われているのか、Copernicusの公表事例を中心に整理すると以下の通りです。(参照:Copernicus Data Space Ecosystem | Copernicus)
| 活用分野 | 主な内容 |
|---|---|
| 自然災害対応 | 森林火災の延焼状況や被災地域のマッピングなど、災害発生時の迅速な状況把握 |
| 土地監視・農業 | 土地被覆の変化把握、農作物の生育状況モニタリング |
| 環境・気候 | 環境モニタリング、気候変動の長期的な分析 |
このように、衛星コンステレーションは単に「衛星の数が多い」ということではなく、複数機を連携させることで観測頻度やカバー範囲、通信の途切れにくさといった性能を底上げする発想に基づいています。近年は小型衛星の製造・打ち上げコストが下がったことを背景に、大企業だけでなく新興企業も含めた民間事業者が独自のコンステレーションを構築する動きが世界的に広がっています。
こうした地球観測用途に加えて、衛星コンステレーションは安全保障分野でも重要性を増しています。次章で紹介する防衛省の取り組みは、その代表的な事例のひとつです。
防衛省が進める「衛星コンステレーションの整備・運営等事業」
ここからは、防衛省が実際に進めている衛星コンステレーションの整備・運営等事業について紹介します。
事業の目的:スタンド・オフ防衛能力の実効性確保
防衛省の衛星コンステレーションの整備・運営等事業の実施背景には、日本周辺での軍事活動が活発化するなか、スタンド・オフ防衛能力(相手の脅威圏の外から対処できる防衛能力)の実効性を確保するために、防衛省自身が情報収集能力を抜本的に強化する必要があるとされています。
既存の民間商用衛星は、必ずしも防衛省のニーズに合わせた構成・運用になっておらず、求める頻度で画像を取得できるとは限りません。また、他国の事業者による画像撮像が何らかの理由で制限される「シャッターコントロール」のおそれもあります。優先的な利用権を獲得できない場合には、必要なタイミングで画像を取得できない可能性も課題として挙げられています。(参照:衛星コンステレーションの整備・運営等事業 実施方針 | 防衛省)
こうした情報収集能力の強化は、2026年に閣議決定された防衛の基本方針にも位置づけられている、より広い防衛力強化の取り組みの一環として捉えることができます。
こうした課題を踏まえ、防衛省が撮像優先権を持ち、必要なタイミングで高頻度・優先的に画像を取得できる、防衛省専用の衛星コンステレーションを構築することが本事業の目的とされています。
BOO方式によるPFI事業の仕組み

本事業は、民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI法)に基づくPFI事業として実施されています。方式は「BOO(Build-Own-Operate)」と呼ばれるもので、民間事業者が自己資金で衛星コンステレーションと専用地上施設を整備し、事業期間中は所有権を保持し続け、事業終了後も防衛省へは譲渡しないという特徴があります。
事業者が担う業務は、
(1)国産衛星(日本国法人が主として国内で設計・開発・製造・所有・管理する衛星)でコンステレーションを構築し画像データを取得する業務
(2)防衛省専用の地上施設を整備・運用する業務
(3)全般管理業務
の3つです。防衛省の所要以外の場面では、事業者が取得した画像を民間向けに販売することも認められており、これによって事業費全体を抑制する狙いがあるとされています。(参照:衛星コンステレーションの整備・運営等事業 実施方針 | 防衛省)
選定事業者と契約内容
2026年3月11日に公表された民間事業者選定の客観的評価によると、本事業の応募は1グループのみで、審査を経て以下のグループが選定されました。
| 立場 | 企業名 |
|---|---|
| 代表企業 | 三菱電機株式会社 |
| 構成企業 | スカパーJSAT株式会社、三井物産株式会社 |
| 協力企業 | 株式会社Synspective、株式会社QPS研究所、株式会社アクセルスペース、三井物産エアロスペース株式会社 |
選定は「総合評価落札方式」(入札参加者の事業提案内容と入札価格を総合的に評価する方式)で行われました。事業提案の審査得点は147.29点(基礎点5点、加算点142.29点。加算項目は500点満点)で、入札価格は当初・再入札のいずれも予定価格を上回ったため、会計法に基づき同グループとの協議による随意契約となりました。最終的な総合評価値は147.31116で、2025年12月24日に同グループが民間事業者として選定されています。(参照:民間事業者選定の客観的評価 | 防衛省)
その後、2026年1月19日に基本協定、2026年2月19日に事業契約が締結されました。事業契約の内容の公表によれば、契約期間は2026年2月19日から2031年3月31日まで、契約金額は税込283,117,137,600円(約2,831億円)とされています。事業の継続が困難となった場合に備え、発注者・事業者双方の解除権や、解除時の精算金・違約金の算定方法についても事業契約書にあらかじめ規定されています。(参照:事業契約の内容の公表について | 防衛省)
事業スケジュールとVFM評価
選定までの経緯を踏まえた事業スケジュールは次のようになります。
| 時期 | 主な内容 |
|---|---|
| 2025年4月8日 | 防衛省が「衛星コンステレーションの整備・運営等事業」の実施方針を公表 |
| 2025年12月24日 | 三菱電機を代表企業とするグループを落札者として選定 |
| 2026年1月19日 | 選定事業者との基本協定を締結 |
| 2026年2月19日 | 事業契約を締結。契約期間は2031年3月31日まで、契約金額は283,117,137,600円(税込・約2,831億円) |
| 2026年4月1日〜2028年3月30日 | 衛星コンステレーションを段階的に整備しながら運用 |
| 2028年3月31日〜2031年3月31日 | 所要の衛星機数を確保し、本格的に整備・運用 |
| 2031年3月31日以降 | 事業期間終了時に有効性が認められた場合は、事業期間を延長可能 |
事業は約5年間で、2026年4月1日から2028年3月30日までを「段階的運用期間」(コンステレーションを段階的に整備・運用する期間)、2028年3月31日から2031年3月31日までを「本格的運用期間」(所要の衛星機数で整備・運用する期間)と位置づけています。事業期間終了時に有効性が認められれば、延長も可能とされています。
GIS・インテリジェンス領域では、「誰が、いつ、どれだけの頻度で衛星データにアクセスできるか」という優先権の設計そのものが、安全保障上の意味を持ちます。本事業がBOO方式を採用しつつ、防衛省の撮像優先権を契約上明確に位置づけている点は、民間の技術力・資金力を活用しながら国としての情報収集能力を確保するという、官民連携の一つの設計思想を示す事例として注目に値するでしょう。
まとめ:業務への示唆
衛星コンステレーションは、複数の衛星を連携させることで観測頻度やカバー範囲を高める仕組みであり、防災・農業・環境モニタリングなど民生分野でもすでに幅広く活用されています。今回紹介した防衛省の取り組みは、この技術を安全保障の文脈で応用した事例であり、BOO方式によるPFI事業という官民連携の枠組みや、約2,831億円という契約規模からも、その位置づけの大きさがうかがえます。
GIS・インテリジェンス関連のサービスに携わる方にとって、衛星データの取得頻度や優先権の設計は、防災・インフラ管理・物流など身近な業務における衛星活用の在り方を考えるうえでも参考になるテーマです。今後の事業の進捗にも注目していきたいところです。衛星データ活用や防衛関連の政策動向については、AISでも関連記事を随時公開していますので、あわせてご覧ください。